第18話

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 誰だ、この男を助けてしまった愚か者は。

 こんなに危ない人だと分かっていたら絶対助けなかったのに!!

 

 あれから求婚を繰り返す狼に、私はいいように翻弄されていた。

 そこを去ろうとすれば進路を妨害され、それこそ蜘蛛の糸に掛かった獲物のように纏わりつかれた。



 「ちょっと!離してくださいませんか!」


 「駄目、雪花はすぐ逃げるから。」


 「駄目じゃないです!逃げるとか逃げないとか、そもそも私はあなたの嫁になるつもりは全くありませんよ!」

 

 きっぱりとお断りしているはずなのに、この狼という男はかなり俺様で、私が自分の嫁になるのは当たり前だというイカれた思考でぐいぐいと来る。


 「何でだよ、金持ち貴族の嫁だよ?

 美味い飯だってたくさん食えるし、そんな汗まみれの服なんか着なくたって綺麗で可愛くて豪華な服を着る事ができるのに。

 何が不満なんだ?ん?」


 何て話の通じない男なんだろう。

 

 しかも化け物地味た腕力の私を動けないように拘束し、こうも簡単に雁字搦がんじからめにするのは私を上回る腕力がある証だ。


 大好きな雲嵐にだってこんなに密着されたことはないのに!と謎の怒りが湧く。


 終いには私の腰を引き寄せて面白そうに顔を覗き込むから、もはや我慢の限界だった。


 「あー…やっぱりお前可愛いなあ。

 もろに好みだ。

 嫁にする以外に選択肢はないな。」


 「…っ!」


 そのまま顎を手前に寄せて、狼はあっさりと私の唇を奪った。

 とっさに顔を引き離し、ふざけないで下さい!と意を決して頭突きを準備したその時。


 


 シャッ、という重苦しくも軽快な音と共に、鋭利な刃先が狼の鼻先を掠めるように割入った。

 それが見えたのか狼は素早く首から後ろに退避する。

 あと一歩遅ければ恐らく狼の鼻は削げ落ちていただろう。


 二人の間に寸分の狂いもなく剣先を割り入らせ、離れた狼からその身体を引き離した。

 自身の胸元にまでしっかりと私を引き寄せて、奪取したのは雲嵐だった。

 

 「…うん、らん…?」



 ————何が起きたのか良く分からない。

 私をしっかりと抱きながら狼を殺意溢れる目で睨みつける、雲嵐の横顔を見上げて思う。


 雲嵐が…まるで私を助けに来てくれた夢を見ている気がする、と。

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