第17話

 遅い。遅すぎる。

 

 苛々とした感情を隠せないまま憂炎は足を何度も持ち上げては地面に着き、それを繰り返した。

 何故なら調査隊が全員戻ったというのに、ただ一人、雪花が戻らないからだ。


 「はあーー…」


 何であの女はこう問題ばかり起こすのだろう。

 城を勝手に出歩いたり、勝手に陛下を探しに行ったり…まあその節は助かったが。

 

 しかし、やはり雪玲妃に似て疫病神のような部分がある。

 陛下に頼まれてさえいなければ、いっそこのまま雪花は置き去りにしてしまいたいと、憂炎は長い溜息を吐きながら思った。


 「…あの。陛下だけじゃなくて雪花にも護衛を付けた方がいいんじゃないですか?」


 苛立つ憂炎を見ながら空虎がぼそっと呟く。


 「何で護衛に護衛を付けるんですか。

 そんな可笑しい話ないでしょう。

 …ったく。あの女人はあ———!あ———

 苛々するっ!」


 途中から怒りを爆破させる憂炎を見て、暫く近づかない方が良いだろうと空虎はそっと側を離れた。


 憂炎が怒る原因はそれだけではない。

 危うくまた、雲嵐まで行方不明になるところだったからだ。

 

 ……雪花が戻らないと憂炎が報告すると、その時はそうか、と何の抑揚もなく雲嵐は答えた。

 それなのに次に憂炎が天幕の中を覗いた時には、既に雲嵐は馬で火藍の方角へと走り出していた。


 流石に影衛隊が見張りがそれに気づき、一番足の速い小鷹がすぐに馬に乗り、雲嵐を追った。


 実は小鷹は隊の誰よりも追尾が得意だ。

 今回は直ぐに後を追った小鷹に賭けるしかないと、憂炎は歯痒さを堪える。


 結局、雷浩宇の有力な情報もないまま軍も立ち往生している段階だから、まだ周囲にも何とか誤魔化しがきいた。

 口煩い阿群将軍にも陛下は疲れて休んでいると嘘を吐き、待機させている。


 だが、何てぐだぐだなのだ。

 うちの君主は自由すぎる。

 心労が絶えないと憂炎は思う。


 けれどやはり。

 雪花が戻らないと聞いた後の行動なだけに、行き先は恐らく火藍だと推測できた。


 つまり雪花を探しに行ったに違いない。

 やはり陛下にとってあの女人に何か特別な感情が湧いていると、認めざる得ないのだ。


 色々な憶測が憂炎の頭を過ぎる。


 そうだ。陛下は自分を毒から助けた静芳様、貴妃様を寵愛していると自負されてはいるが。

 にも関わらず貴妃様を召し上げた事が未だかつてない。


 「不能」であると噂されているが医師によればそれはないだろうとのことだ。

 ともなれば健全で旺盛な男性である陛下が、一番寵愛している静芳様を召さないこと事態が変な話なのだ。


 ————陛下はずっと、何かを隠していらっしゃる。

 

 誰よりも陛下に近く、一番に忠誠を誓っているのは自分なのに、隠し事をされていると思うと憂炎は悔しさを感じた。

 その事実に苛立ちながら、無意識に拳を握り締める。

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