〈絡みつく男〉
第16話
————何で私はこう…………
この
———火藍は小さな町であるため軍は率れず、山腹にほぼ全軍を待機させることになった。
騎兵と影衛隊を合わせた少人数を調査と斥候目的で向かわせる。
その中には化け物地味た女ということで、私も含まれていた。
ちなみに馬に乗れない為、いつも隊の誰かの馬に乗せてもらっている。
火藍に入ると町人たちに、雷浩宇に関する情報を聞いて回り、各自散り散りになった。
それぞれ少数で組んで行動し、範囲を広げない程度の調査の予定だ。
今回ばかりは雲嵐も、軍の中で大人しくしていることだろう。
それを思えばこの汗ばむ季節でも、男の格好でも我慢できる。
元々武将の武勇伝話が大好きだったから、まさか自分が禁軍の一員になって城の外に出れるなんて思いもしなかった。
もし前世で雪玲として側室のままだったなら、一生籠の中だったかもしれない。
だから今のこの瞬間は、私にとって最高のご褒美でもあったのだ。
それにこの身軽な躰なら、軽く千里も越えられそうな気がしていた。
『くれぐれも町から出ないで下さいよ。
…分かっていますよねえ?雪花。ねえ?』
と、溢れ出す殺気を纏いながら、非常に語尾を強調していたあの時の、憂炎の言葉を思い出す。
軽やかな足取りで駆け回る間に私は、あれだけ憂炎に釘を打たれていたにも関わらず町を出て森の中に入っていた。
…やってしまった!
うろうろと帰り道を模索しているうちに偶然、大きな古木の根に腰を下ろしている男を見つけてしまう。
どうやら膝をケガをして、動けずにいるらしい。
早く戻らなければいけないのに、痛いと顔を引き攣らせ、座り込む男を放って置くわけにもいかず。
怖い憂炎の顔と舌打ちを想像しながら結局、留まって治療することにした。
「…痛っ!」
擦りむいた足の患部からは血が流れ捲れた皮から少し肉が見えていた。
よほど派手にすっ転んでしまったんだろう。
男は文字通り言葉にして、苦痛に顔を歪める。
「痛かったですか?けど、もう少し我慢して下さい。患部はちゃんと洗い流した方がいいんですから。」
持っていた予備の口をつけてない飲み水をその痛々しい患部に向けて流し泥汚れを落とす。
父である泰然が良く言っていた。
戦でちょっとしたケガでも侮ればすぐに命を落としてしまうと。
それは傷口から泥の中にいる菌が入り込み悪さをするからだ、まずは傷口をきれいにする事だと。
それを聞いてからは念頭に置くようにしていた。
そうして洗い終わった後持っていた布切れで水分を拭き取る。
首から下げた薬草袋を取り出して傷まない程度に患部に塗り込んだ。
つい何の薬草でも布切れでも持ち歩いてしまうのは前世の癖。
妃だった雪玲の時にこうやってケガをしたり口元を隠したい時などに使っていたのが中々抜けていない。
その布切れでケガの患部に巻き何とか治療を終える。
「…ふう。」
治療終了と同時に立ち上がるとそれまでに流れた汗を袖元で拭った。
なんかよくケガをする人を助けるなあと、昨夜滑落して動けなくなっていた雲嵐を思い出して笑う。
「あんた、手当てがうまいんだな、ありがとうな!」
男は手当てした部分を摩りながら、はきはきとした声で謝辞を言い私を見上げた。
珍しく
衣服も地味ではあるがかなり良生地のように見える。
腰元には短剣が忍ばせてあり、とても町人の様には見えない。
まだ青年といった所だろうが妙に明るく何だか人懐っこい性格である。
しかし初対面である筈なのに何故こうもどこかで見た事がある気がするのだろう————
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます