第15話

 雲嵐を守る影であり盾となることを誓った憂炎たちは、城でそれなりの教育を受けた。

 武術と学問の両方である。


 普段は文官として過ごした。

 しかし雲嵐を脅かす勢力や不穏分子があれば、それを見張り隠密的に行動した。

 雲嵐には元々内官の側近らがいたが、深く信頼してるのは憂炎たちで、常に傍に置いていた。

 

 …そんな憂炎にはある悩みがあった。


 そもそも影衛隊の最重要任務は、四六時中交代で雲嵐を護衛する事だ。

 だがその対象が、たまにふらっと行方を晦ませてしまうのだ。

 その身が危険に晒されないよう片時も離れず傍で護衛していたはずなのに、まるで神隠しに合うように雲嵐はいなくなってしまう。


 かと思えば、何事もなかったような顔をしていつの間にか無事に戻ってくる。

 しかしどこへ行っていたかも、決して話そうとはしなかった。


 …一体あの方はどこで何をしているのか。

 あの時も———

 

 それは宮廷の誰にも分からない事だった。

 護衛の一人も付けずにいなくなるなんて、この国の稀有な太子ともあろう方が。


 雲嵐が単独行動を繰り返し、その姿を見失うのは憂炎にとっても頭の痛い問題だった。


 そしてもう一つ。

 雲嵐には大切にしている女性がいた。

 幼少の頃より幼なじみだという白い肌の美しい少女。名前は「武雪玲」。

 

 普段は隠密であるため遠目にしか眺める事ができない少女だったが、雲嵐がとても愛おしそうに彼女を見つめるのだけは分かっていた。

 

 しかし…雲嵐の父である冬雹が暗殺されて19歳で皇帝に即位した直後、大尉の父親を持つ彼女は17歳で後宮に上がり妃となった。

 雲嵐が皇帝となった瞬間、権力を握りたい諸侯らはこれ見よがしに自分の娘や見繕った娘を側室に当てがった。

 


 雪玲も結局、父親の欲に飲まれ権力欲しさに妃になったのだろう。

 その証拠に雲嵐と雪玲は険悪な関係になっていった。


 天帝の御使とされる尊い雲嵐に対して雪玲のあるまじき傲慢な振る舞いに、憂炎は激しい怒りを覚えた。

 

 …あんなに陛下に大切にされていたのにそれを自ら壊すとは…!

 何て分不相応な女なんだろう!



 愛想を尽かされるのも分かると、憂炎は雪玲を仇のように思うようになる。

 

 しかも「後宮の悪女」と呼ばれた雪玲は、あの日雲嵐を裏切って毒を飲ませ、雷浩宇を手引きして城を奇襲させた。


 だが最後は流れ矢に当たり死んだという。


 ばかめ。自業自得。天罰が下ったのだ。

 憂炎は雪玲が死んだと聞いて安堵した。


 だが、どういう訳か雪玲の遺体は捜索しても見つからなかった。

 しかし、裏切り者の悪女がこの世から消えたという事実は変わらない。


 あの時雲嵐を見失い、命を危険に晒したことを憂炎も含めて今の影衛隊は誰もが後悔している。


 雪玲のせいで記憶を無くし、雲嵐がひどく心を閉ざしたことも優炎は根に持っていた。


 …武雪玲。

 あんなにお前を大切にしていた陛下を裏切った罪は重い…!

 ………死んでもなお、自分の罪を悔い続けるがいい!!

 憂炎は、ずっと雪玲を恨み続けていたのだ。


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