〈忠誠の炎〉
第14話
———朱国五代目皇帝・任雲嵐。
彼ほど読めない心をした方はいないだろう。
今の影衛隊の多くはもともと
先代皇帝の任冬雹の戦狂のせいで多くの奴婢の歩兵が死に、親を失った孤児たちは行き場を失い、市場で馬や牛と一緒に売られた。
憂炎、12歳の頃である。
当時は皇帝を始め多くの貴族や富豪が大量の奴婢を所有しており、飽和状態にあった。
地方の
粗灘の家では憂炎達は主に農作業などに従事していた。
しかし粗灘の子息である
———
家畜の放牧場の柵の中に集められた多くの奴婢の少年たち。
偉担は真夜中にも関わらず、ぞろぞろと大人の従者を引き連れてきて、笑いながら言った。
「これよりお前らには、この柵の中で鬼ごっこをしてもらおうと思う。
決まりは単純明快だ。
俺が振り回すこの剣から最後まで逃げ切れたら勝ち。
ただし柵の外に出てはならない。」
そう言って偉担は腰元からするりと、良く磨き上げられた剣を抜いた。
月の光を反射させて怪しく輝くそれは、まだ憂炎よりも幼い少年らを震い上がらせる。
皆これから起こる事を一瞬で予見した。
「始め!」
偉担の声に、皆が一斉に背を向けて柵の中を走り始める。
その後悠々と柵に入ってきた偉担は、真っ先に恐怖に震えて足が動かない少年達を斬った。
「ギャアア!」
「痛い!」
妙に月明かりに照らされた夜だった。
悲鳴が聞こえたその場所が既にまともな状態にはないことを、憂炎は振り返って目の当たりにした。
地面を這いずり回り、逃げ惑う小さな子たちを偉担は背中から容赦なく剣で突き刺している。
「あははは!弱い、弱っちいなあ!
お前たちが逃げないからだろう?
弱くて逃げないから死ぬんだぞ?
分かってんのか?あ?
あー…でも。お前らが死んでも誰も困らないんだから、しょうがないよあー。」
少年らの血飛沫でその辺りはあっという間に赤く染まった。
また柵の外に逃げようとした者は、既に回り込んだ従者らによって、これもまた同じ様に槍で無惨に腹から貫かれた。
まさに地獄の様な光景を、憂炎はその目に焼き付ける。
助けなければ。だが恐怖で足が震え彼らを助けに戻る事ができない。
…まるで生きるなと言われているかの様に沢山の命が、呆気なく無情に失われていく。
けれど憂炎は生きたいと願った。
死にたくない。
生きたい。
その感情を持つことが
こんな風に死んでしまうなら自分達はなぜ、この世に生まれてきてしまったのか。
隣で槍に突き刺され、血を流し、柵の中に倒れていく子供たちを見ながら憂炎らは、死を覚悟し柵を越えた。
————月明かりが綺麗な夜だった。
どれだけ走ったのか。
肺が千切れそうな程、苦しい。
どれほど生き残れたのか。
両目を見開き「一緒に連れて行ってくれ」と袖を引っ張り、死んでいった子らの顔がこびり付いて忘れられない。
獣道とも呼べない荒れた山林の中で、生き残った何人かの少年たちと一緒に憂炎は息を切らし、大木を背後に座り込んだ。
「…どうする?」
「まだ追手がうろうろしてるぞ。」
こんな状態でも、細身の小鷹と、槍で頬に傷を負った空虎だけが、強く周りを警戒している。
いつ追手に気づかれるかも分からない、こんな知らない場所でどんな獰猛な獣がいるとも限らない。
こんな所で自分たちが生きていけるはずもない。
戻れば殺される。
けれど何もしなくても死ぬ。
何てこの世は無情なのだろうと、憂炎が諦めかけて目を伏せようとした時—————。
「何だ、お前たち。…どこから来た?」
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