第7話
「す、すびばせん。見ず知らずの文官様に…
抱きついた上に泣きじゃくるなんて…」
結局あれから林杏は陽が傾くまで私の袖元で泣いた。兵に見つからないよう建物の裏で。
痩せこけた頬には涙の痕が残り…鼻汁なども流れていたので、本人には言えないがちょっと不細工で可愛い等と思ってしまった。
自分のことを雪玲の生まれ変わりだと説明できない歯痒さはあったが、ひとまず林杏が無事なのが分かって良かったと胸を撫で下ろす。
「…私、一年前までは妃である雪玲様の侍女だったんです。
ですが雪玲様が皇帝暗殺を
そこに務める宮女たちに時々ああやって嫌がらせを受けるんです。」
やっぱり。
本来なら裕福な貴族の出自である林杏を、下働きのような宮女の仕事をやらせること事態あり得ないのだ。
原因は雪玲の侍女だったため。
それ以外に理由は考えられない。
こんなに痩せてしまって。
ごめんねという申し訳なさと、何とかして助けてやりたいという気持ちが押し寄せる。
「大変…ですね。その。
こんな目に遭って、その雪玲妃を恨んでいるのでは?」
「雪玲様をですか?まさか!
確かに雪玲様は後宮の悪女などと言われていましたが、実際は違いました!
あの方は、私や他の宮女や宦官らにいつも優しくして下さいました。
妃ではありましたが他の妃方のように偉ぶったりする素振りもなく…明るくて誰にでも友達のように接する方でした。」
袖の端で涙の痕を拭ってあげると、林杏は雪玲のことを嬉しそうに話した。
林杏がそんな風に思ってくれていたなんて。
思わず照れてしまう。
「それに私は、雪玲様の無実を信じています!
あの方は決して陛下を裏切るような方ではありませんでした!だから…!」
両手に力を込めて林杏がそう言い切ったところで、私は無意識に彼女を力強く抱き締めていた。
「あ…あの?」
正直嬉しい。
林杏が私の死後も無実を信じてくれていたなんて。
思わず抱きしめたくもなる。
「あ、ごめんなさい!その、あなたがあまりに良い子だからつい?」
「ええ?良い子って…あなたとあまり歳は変わらなそうに見えますけど?」
慌てて林杏の体を引き離しながら照れ隠しで笑うと、彼女もまた顔を赤くし、くしゃっと嬉しそうに微笑んだ。
「あの、お互い敬語はやめませんか?
私、林杏っていうの。あなた名前は?」
「私の名前は雪…花よ。」
「名前も似ているのね。
ねえ、また私に会ってくれない?
あなたといると、雪玲様を思い出して心地が良いのよ。」
「え、ええ分かったわ…」
「約束よ。」
指と指を絡ませて私は林杏と約束を交わした。
もう前世のように妃と侍女ではないけれど、今の友達のような関係も悪くない。
むしろこちらの方が良いかも。
再び尚食局に戻っていく林杏を見送りながら、この子のためにも早く雪玲の無実を証明したいと強く思った。
———その様子を覆面で顔を隠し、壁の上から見張るのは、空虎と小鷹だった。
訓練中とは違い着衣してるのは
つまり影衛隊の本来の正装である。
彼らは皇帝の護衛以外にも不穏分子を監視する役割も持つ。
その行動は他に悟られないように隠密的に行うのである。
「…何だろうねえ。あれは。ふふ。」
「あれは雪玲妃の侍女だった女だろ?
やっぱりもう雪花というあの女、怪しい以外に何でもねえよ。」
「でもさ?まだ黒と決まったわけじゃないだろう?」
とりわけ初めから雪花を疑っている空虎とは違い、小鷹は何か面白い余興でも見つけたかのように目を細めて笑った。
———あれから急いで旧舎に戻った私を待ち構えていたのは鬼のような形相をし、入口にがに股で立っていた憂炎だった。
逃げるべきかと真っ青になったがもう遅かった。
「雪…花あ。どーこーに行っていたんですかあー?
ええっ?勝手に城の中を出歩くなんて殺されたいんですかね?ああ?」
「ひっ!…ご、ごめんなさい憂炎さまあ!」
容赦のない憂炎の後ろからの羽交締め攻撃に、私はそれまで味わったことのない苦しみを味わう事になる。
最早女扱いされてないことも分かる。
それに、ただ腕を回されているだけなのに骨が簡単に折れそうだ。
この憂炎も只者じゃない…とか考えながら、つくづく自分の行動も反省するのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます