第6話
———やだ、私…何でこんなに強いの?
前世…という一年までの
父は大尉の文官職に就いて、都には大尉府を設けている。
その娘である私は生粋の貴族だ。
お
なのに…今日隊舎に案内された後で隊の訓練に参加しろと憂炎に言われて。
選りすぐりの精鋭と言われる隊の男達となぜか戦うことになった。
日が高く昇る頃、訓練場では隊の筋肉質な男たちが既に汗だくで剣の稽古などをしていた。
皆が初めて見るうえに、しかも女かよ…という表情でこちらを見ていた。
勝負の内容はこうだった。
訓練場の地面に、輪になった線が引かれている。
その輪の中で、どんな手を使ってもいいから相手を地面に押し倒したり、線の外に相手を押し出せば勝ち、というもの。
それに従って、戦った結果。
何と四人を相手に全勝してしまったのだ。
———まず腕力。
鍛えた覚えもないのに、掴みかかってきた相手の腕を、一連の動作を体が覚えているかのように軽々と捻り上げて、押し倒した。
そして受け身。
全身で向かってきた相手の動きが見えたので
さらに体力。
立て続けに四人と戦わされたのに全く疲れがこない。
そうして自分でも良く分からないうちに、最終的に全員を倒してしまっていた。
「お前女のくせにすごいな!」
「その細い体のどこにそんな腕力があるんだよ?」
なぜか隊の男たちに尊敬の眼差しを向けられて持て
「ええ?…どうも?」
訳のか分からない自分の身体能力の高さに首を捻り、群れ
「さすが陛下だ、人を見る目は確かだな!」
普段皇帝の命を守るという大役を担っている彼らは、どうやら雲嵐を憧れの眼差しで見ているようだった。
雲嵐が認めてもらえるのは私も嬉しい。
まだ若皇帝の雲嵐は継母である皇太后や、宮廷を牛耳ろうとする諸侯たちに都合よく転がされ実権を握りきれてないところがあり、舐められていると悔しい思いをしていた事もあるからだ。
とまあ、そんな悠長なことを考えてる暇はない。
せっかくこうやって雲嵐に近い側近たちと仲良くなったのだから、証拠集めには持ってこいの機会のはず。
「…あの。皆さんにお聞きしたい事があるんですけど。」
「何だ?隊のことならなんでも聞けよ。」
すでに仲間と歓迎されているような不思議な心地よさを感じながら、あの夜のことを尋ねてみる。
あくまで人伝いに聞いた体で。
単純に暗殺未遂のことに興味を持った娘の風に。
「…その……憂炎様に陛下の暗殺未遂のことを聞いたんですけど。
一年前に陛下が殺されそうになった夜、
そばに護衛兵や内官がいたらしいですよね。
その時陛下と一緒にいた彼らは一体どうなったんでしょうか?」
「…お前。なんでそんな事」
一番近い距離にいた、頬に傷を持つ男が怪訝そうにこちらを見る。
「あ…いえ。単に純粋に興味があっただけですよ?
だってこれから皇帝陛下に支えるなら色々知って置きたいじゃないですか。ウフフ…」
しまった!……失敗した?
下手な言い訳をする私を見て、男はますます疑わしいといった目をした。
けれど今は、やっぱり笑って誤魔化すくらいしか他に芸がなかった。
「変なヤツ…」
「いいじゃないですか。
「
疑いの目で私を見る男との間に割って入った、別の男。
他の
階級を示すなら憂炎の着ていた朱殷色の下に当たる色である。
頬に傷のある男の衣もそれに近い色をしている。
「あの夜、右東門で倒れた陛下のそばには静芳様以外誰もいませんでした。
つまり、陛下を助けたのは静芳様だけだったそうです。
側に兵や内官が居たなんて憂炎様がそう仰ったんですか…?」
小鷹と呼ばれたその男は穏やかで丁寧な口調で言った。
———なるほど。
あの夜薄れゆく意識の中で確かに陛下を抱えて立ち去る数人の兵と内官を見たのに、門のそばにいたのは陛下と静芳様だけだったと。
となるとその時点で葉大将軍の軍がお戻りになって都合が悪くなった静芳様が、目撃者である彼らを全員、
私を含め、あの夜の目撃者がいないのだから事実を捏造できたのだろう。
「あれ〜?おかしいですねえ。
じゃあ私の聞き違いだったのかも?
申し訳ありません。あ、答えて頂きありがとうございました!」
目撃者探しが駄目になったと分かれば他の手を探すしかない。
落ち込んでなどいられない。
大好きな雲嵐の傍には狡猾な悪女がいる。
何としてでも本当は静芳様が雲嵐に毒を盛った国家反逆者であり、
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