〈皇帝の影衛者〉
第4話
『禁軍』それは皇帝を守衛する
各将軍から成る15の軍で主に皇帝や中央を守る正規軍だ。
その中でもさらに皇帝個人の護衛を主とした、より親密な親衛隊として『
「…はー。なぜでしょうね。」
朱国皇帝・雲嵐の影衛隊となることを強制的に約束させられた雪玲……あらため
しかも、さっきからずっと溜息だ。
「はあ…なぜでしょうね?」
早く隊のことを覚えろと雲嵐に命令され、すぐにこの隊の殺風景な執務室に通されたのだが。
吸い込まれるような
朱国では服の色で階級を表すがその中でも将軍クラスの
あっさりとした、それでいて女人のような綺麗な顔をしているのだが、服装の上から見ても骨格や筋肉の出方が鍛え抜かれていると一目で分かった。
その憂炎は偉そうに椅子に座り、不愉快そうに眉を顰めては、さっきからずっと謎々みたいなことばかり呟いている。
つまりは、私がこの人に歓迎されていないということだけは分かる。
しかし理由が分からないためオウム返しを試みることに。
「チッ…ふざけないで下さいよ
うちの隊になぜ女なんかを?
あなた…皇帝に色目使いました?」
「えっ!使ってませんよ!?」
色目って何?そんなものが使えたら一年前にとっくに雲嵐に寵愛を受けていただろう(?)
しかもどうやってあの殺意が漲った雲嵐に色目を使えたというのか。
どうやら憂炎はこの隊に、見ず知らずの女が加わるのが気に食わないらしい。
まあ男しかいない、しかも特殊な隊に突然訳の分からない女が放り込まれたら、誰だって反抗心が芽生えるのも分からなくはないが。
ずっと眉間にシワを寄せたまま、憂炎は私を見て不満気に吐き捨てた。
「この隊はね………今から約一年前に新設したんですよ。」
「はあ。」
まあ、そうだろう。私が死ぬ前にはなかった隊なんだから。
「
ブンブンと首を振ると、憂炎は自ら聞いたくせに面倒臭そうな表情をして言った。
「一年前にね、皇帝は暗殺されそうになったんですよ。ある側室によって。」
ああ、それなら覚えている。
あと少し遅ければ雲嵐は弓矢に撃たれて死んでいただろう。
「これが……とんでもない悪女だったんですよ。」
「そう…なんですね。」
あの後静芳様はどうなったのだろうか?
「側室の名前は
「ええっ!?」
思わず大声を出して身を乗り出すが、逆に憂炎にじろりと睨まれて萎縮してしまう。
「雪玲妃はあろうことか、豪族の雷浩宇と共謀して城の中へ一小隊を手引きし、皇帝に毒を盛って殺そうとしました。」
え?違います!それ私じゃありません……!!
また大声で叫びそうになった。
どこをどう間違えればそんなに事実が歪曲されてしまったのかと、開いた口が塞がらない状態に。
しかしそんな私のことなどやはり目にも留めない憂炎は、軽やかな口調に切り替えた。
「けれどあと一歩で命が奪われようとしていた時に、勇敢な静芳様が薬草を飲ませて、皇帝の命を助けたのです。」
うそ!!あの日雲嵐を助けたのは私なのに…
「ところが皇帝は、その夜の記憶を失くしてしまったのです。
…なので今後一切こういう事態が起きないように、皇帝個人の護衛を主とする我らの隊ができたのというわけです。」
「…そん…な」
「…そんなとは?」
「あっ!いえ…その…側室はどうなったんです?」
「あの悪女ですか?
…悪女は運悪く流れ矢に撃たれて死亡しました。
罰が当たったんですよ。
元々雪玲という妃は意地の悪い悪女で、皇帝を困らせていましたからね。」
憂炎は憎き敵が滅んだのでとりあえずは満足だとばかりに、その濡羽色の瞳を細めて口角を上げた。
…いやまあ、運というか、罰というか。
好きな雲嵐を守って死ねたのだから本望というか。
「とにかく我々は皇帝の命を預かる影衛隊です。失敗は許されないんですよ。特に身元不明の怪しい女などは要注意です。
そう…あの悪女に似ているあなたとか、ね」
ぎろりと鋭い目で睨みつけられる。
なんか凄い疑われているんですけど。
まあ、怪しいですよね。分かりますよ?
身元不明の記憶喪失の女(ということになった)なんて怪しくて仕方ないでしょう。
私だって訳の分からない繭の中で生まれ、しかもたった一年で育った自分が怪し過ぎて怖いですよ。
それにしてもこの憂炎という男。前世では見かけた記憶がない。
なのに雪玲への激しい憎悪は感じる。
雪玲の時に私はこの男に、何か恨まれるような事をしただろうか?
そう言えば昔一度だけ雲嵐に、自分には身を守るための隠密のような側近がいるのだと教えられたことがある。
もしかしてそれがこの人物なんだろうか。
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