私を殺して

 何もかもがエリスの思惑通り。

 全ての舞台は、このエピローグに繋がっていたのだ。

 ユースティティアはこのまま濡れ衣を着せられ、処刑されるだろう。



 愛したキリクスは、最後までユースティティアを憎んでいた。

 アドニスを殺した真犯人であるエリスを、これからも心の底から愛し続けるのだろう。

 自分の兄を殺した女とも知らずに。

 なんて素敵なエンディングだ。



 (そうだ 

 あの人は最後まで私を愛してはくれなかった)



 「あはは………うっ………」



 「何なんだよっ、気色悪い女だ!早く死ねよ、この罪人が!」



 今度はボロボロと涙をこぼすユースティティアを見て、騎士は喚いて去っていく。

 だが今はそんな事はどうだっていい。

 もうこの涙さえ、いつかは流せなくなってしまうのだから。




 「う………うっ、く。」



 結局ユースティティアは何もできなかった。

 皇后のフロアレを救う事も、キリクスも。

 アドニスも。



 いくら犯人がエリスだとしても、キリクスの大切なアドニスを結果的にユースティティアが殺してしまったのと変わらない。

 ユースティティアはこんな事なら、初めから希望など持たなければよかったと思った。


 

 あの日オプスキュリテの皇室の庭で、出会わなければよかった。



 キリクスを愛さなければよかったと。



 ただ、全てが虚しかった。




 *




 しかしどうした事か、裁判は一向に進まなかった。

 それというのもキリクスが、この事件の真相をしっかり調査するべきだと主張していたせいだ。



 もはやキリクスには、憎しみ以外なかった。

 それなのに、一番ユースティティアを憎んでいるであろう彼が、この茶番とも言える事件の真実を掴もうとしていた。



 裁判長や裁判員は全て買収され、嘘の証拠をつらつらと並べる証人達が並ぶ中で。


 

 あの日のアリバイの洗い出し、食い違う証言を見つけ出し、第三者の足跡を追跡するなど、事件の徹底的な追求を、裁判に持ち出した。



 これには皇室の司法も動かざるえないと、ついに本格的な捜査が始まった。



 相変わらずキリクスは憎しみに満ちた目でユースティティアを睨んでいたが、彼女にしてみればそれすら嬉しかった。



 もうこれ以上希望などいらない。そうどこかで諦めたはずなのに、キリクスの正義を貫こうとする姿が誇らしかった。


 

 これで裁判はまたやり直しとなる。

 キリクスは、ユースティティアが犯人だという確実な証拠を集めたいのだと思う。

 それが結果的にエリスへと繋がっていくとは、まさか夢にも思ってないだろう。




 もしかしてまだ希望はあるのだろうかとユースティティアは薄汚れた、牢の窓を見つめた。

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