真相 〜ユースティティアの場合〜2

私を殺して

 *



 罪人や被疑者を閉じ込める塔には、頑丈な鉄格子があり、外には牢番が昼夜問わず入れ替わり立ち替わりで立っている。



 ここからの逃亡は、ほぼ不可能に近い。



 ろくに掃除もされてないので、部屋はカビ臭く、湿っぽい。

 あるのは顔や手を洗うだけの薄汚れた水。

 埃を被った簡易ベッドだけ。

 だがユースティティアは、粗末に扱われるのは慣れていた。



 

 あれから何日経っただろう。



 何度目かの裁判で、いくらユースティティアが無罪を主張しても、様々な証拠を突きつけられた。

 その当時部屋にいたユースティティアのアリバイを崩すよう、明らかに偽装した書類。

 アドニスにしつこく迫っていたのを見たと言う、虚偽の告白をする使用人達。

 キリクスに宛てた手紙のいくつかが押収され、宛先が書かれた文面だけが破かれ、それがアドニスへのラブレターとされた。




 何を言っても、皆が皆ユースティティアを否定する。

 悪女だからと、さらなる濡れ衣を着せる。



 しかし当のユースティティアの気がかりは、この裁判所にいないキリクスのことだけだった。



 相変わらずキリクスは、塔に会いにくる事もなかった。

 それでも後半の裁判の時になると、ようやく現れた彼の顔を見て少しだけホッとした。

 


 だがキリクスは心底ユースティティアが憎いという目をしていた。



 「どうして……」




 どうしてエリスはアドニスを殺したのか。

 いくら皇太子の座を下ろされたとは言え、彼とは何年も夫婦だったのに。

 それとも………

 ある恐ろしい考えが、ユースティティの頭に何何度も浮かんだ。

 


 

 そんなユースティティアの前に、皇室騎士団の1人がやってきた。

 重そうな甲冑をガシャガシャと言わせながら、ユースティティアに蔑みの視線を浴びせた。




 「おい、よく聞けこの殺人鬼。

 たった今、お前とキリクス様の離婚が決まった。本当に良かったよ。

 お前のような悪女と離婚できて。

 これでキリクス様も心置きなく、優しいエリス様と結婚できる。」

 


 「え……?」



 「当然だろ!

 離婚されて当然なんだよ、お前みたいな悪女!罪を認めてさっさと死ねよ!この悪魔が」



 キリクスと離婚。



 そしてエリスが、キリクスと再婚する。




 何か騎士団の男が下品な言葉を吐き続けているようだったが、ユースティティアの頭の中は真っ白だった。

 やがて点が線となり、その全てが繋がった。



 「ふ……ふ、ふ。

 あははは、あはははは!!!」



 「!!?」


 

 あまりの可笑しさに、ユースティティアはついに狂ったように笑い始めた。

 その尋常ではない様子に怯えた騎士が、後ろに仰け反った。



 だがユースティティアは笑うのをやめなかった。



 分かってしまったからだ。

 エリスの企みが。

 エリスの陰謀が。



 あの悪女の真の狙いが。これが笑わずになどいられようかと。

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