悪女になったユースティティア

 「なぜだ……なぜ兄上が皇太子の座を剥奪されなければいけないんだ…!」



 不貞の事実を決して認めないイーブルではなく、その息子であるアドニスの事で、キリクスは酷く嘆いた。



 ユースティティアが司法局に転送してしまった動かぬ証拠によって、アドニスを孕んだイーブルがどれだけ無実を主張したところで後の祭りだった。



 ましてやアドニス本人も、まさか自分が不貞によってできた子だとは、思いもよらない真実だっただろう。



 蒼白な顔をして膝から崩れ落ちたアドニスを、キリクスは懸命に支えた。




 「兄上!気を確かに!

 絶対に違います。兄上は間違いなく、このザイン国皇帝の息子です……!!」



 「あ……いいんだ、キリクス。

 俺の事は放っておいてくれ。」



 あまりのショックに平静さを保てないアドニスは、キリクスの腕を払い、皇宮の奥へと消えて行ってしまう。



 「兄上……っ!!」



 そんなアドニスの背中を、キリクスは辛そうに見送った。

 



 イーブルが断罪され、幽閉された事によって、エリスの母親であるクリュタイメストラは、それが自分に飛び火しないように口を噤んでしまう。

 けれどこれで、危険を犯してまでキリクスをこれ以上狙う事はしないだろう。


 

 仕方がなかった。キリクスのため。

 守るため。

 守るためだったのだからと、ユースティティアは自分に言い聞かせた。



 兄と慕うアドニスの身の上に起きた事に、キリクスは悩み、苦しんでいた。

 その姿に、ユースティティアも苦しんだ。



 (……私が間違っていたの?)



 ユースティティアはただ、キリクスを守りたかった。

 ただ、それだけだったのに。



 ユースティティアは後悔した。

 自分の最愛の人を苦しめた結果に。



 だが他にどうすれば良かったのか分からなかった。




 しかし——————予想だにしなかった事件が起きた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る