悪女になったユースティティア

 アドニスが、何者かによって毒殺された。



 その報せを受けた直後、ユースティティアの部屋に、武装した皇帝の私兵が踏み込んできた。



 「皇帝陛下からの罪状を読み上げる!悪女ユースティティア!

 貴殿は第2皇子キリクスの妻でありながら、

疚しくもその兄であるアドニスに恋心を抱き、手に入らなかったからと殺害を企てた!

 よって貴殿を直ちに罪人の塔に監禁し、詳しい調査を開始せよ!との勅命である!

 捕らえよ!」



 兵達が一斉にベッドの上にいたユースティティアを取り囲んだ。

 強引に腕を掴まれ、床に引き摺り下ろされた。



 「待って、待って下さい!私は何も……

 何もしていません!

 私がアドニス様を殺すなど……!」



 どうしてこんな事になったのか分からない。

 それにユースティティアは、アドニスを慕った覚えはない。

 愛しているのはキリクスだけだ。



 ユースティティアは必死に無実を訴えるが、兵達は一向に聞く耳を持たなかった。

 キリクスの使用人や部下達は、やっぱりかという目をした。



 そこへ、勢いよくキリクスが飛び込んで来た。



 泣き腫らした目。腫れた瞼。

 その瞳には激しい憎悪が宿り、今にもユースティティアを殺してしまいそうだった。




 「ユース……ティティア……!!よくも……

 よくも兄上を……!!

 許さない……絶対に許さない!!」



 視線は険しく、両の拳は強く握られ、身体中から殺意が漂っていた。



 「キリクス……さま…………」



 ユースティティアは誰に憎まれたって構わないと思っている。

 どれだけ罪を着せられても、それを証明することも諦めてきた。



 でもキリクスにだけは、信じて欲しかった。



 「ひどいですわ、お姉様!

 まさか、アドニス様を殺すなんて……!」




 激しい憎悪を向けるキリクスの背後に、ふとエリスの姿が見えた。

 彼の背中にしがみ付き、弱々しい演技をしながらユースティティアを罵った。



 それから——誰にも見えないように嗤った。




 勝ち誇ったような満悦した顔で。

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