悪女になったユースティティア

 —————ユースティティアは罪を犯した。



 大好きなキリクスを、一生苦しめてしまう罪を。



 Frozen blue roseの悪女。

 皆が言う通り、ユースティティアは本当に悪女になってしまった。




 *



 部屋に篭るようになり、夫であるキリクスどころか、使用人とさえ話をしない日が続いた。



 そんな中、独学で覚えたのは『見たいものを見る魔法』というもの。

 詠唱して効力を得ている間に、人々が話すことやその風景を覗き見る事ができる、という、非常に便利なものだった。



 自分が聞きたい会話と唱えれば、その人達の姿が見えて会話が聞こえる、という不思議な魔法だった。



 ユースティティアが知りたいのは、誰がキリクスを危険に晒しているのかという事だった。



 それというのも近頃、キリクスの周りで不審な事が立て続けに起きている。

 お茶に毒が入っていたり、故意に誰かに突き飛ばされ、頭を打って死ぬところだったり。



 陰では、全部ユースティティアの仕業だと言われていた。

 だが、いくらキリクスに冷たくされているとは言え、愛する人にユースティティアがそんな事をするはずがなかった。



 だからそれがエリスの仕業なのか確かめるため、ユースティティアは城内で、あらゆる人物達をチェックした。




 そして、聞いてしまった。




 オプスキュリテの皇妃であり、エリスの母親でもあるクリュタイメストラと、キリクスの帝国の皇后、イーブルがほのめかすのを。




 『困った事に、近頃キリクスが余計な力を付けてきているのです。

 それに、最高峰の魔術師として民にも人気が高まりつつあります。

 だから、皇帝がこの先アドニスでなく、キリクスを皇太子に選ぶ可能性も出てきて、非常に煩わしいのですよ。』



 『あら。皇后様も心労が絶えませんわね。

 そうなると私だって困ります。

 アドニス様が皇帝とならなければ、大切なエリスを嫁がせた意味はありません。』



 『ええ。ですから実は、ここだけの話。

 わたくしはキリクスをどうにか排除しようと動いてきました。

 けれどあの男は、魔術師として自身に加護を付与しているせいか、なかなか死にませんのよ。

 それがもどかしいのです。

 皇妃。こうなれば一緒に、あの煩わしいキリクスを殺しませんか?』




 『…まあ、まあ。うふふふ。怖いですわね皇后様。

 けれど面白い提案ですわ。

 元より私共としてもアドニス様以外の皇帝は認められません事よ。

 こちらに利があるのなら、是非乗らせて頂きますわ。』




 (———————なんて事………!)




 ユースティティアは、ザインの皇后と、オプスキュリテの皇妃が共謀してキリクスを暗殺しようと企んでいた事を知った。

 その陰謀を必ず止めなければならない、ユースティティアは固く決意する。





 しかし悪女のユースティティアの言葉には誰も耳を傾けないだろうことは予測できた。

 だから居ても立っても居られない気持ちを抑え、ユースティティアはその日も冷静に、ずっと考え続けた。

 キリクスを守る方法を。

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