真相 〜ユースティティアの場合〜

キリクスとの結婚

 キリクスと出逢い、ユースティティアはすぐに恋に落ちた。



 優しいキリクスは、エリスの姿をしていたユースティティアに驚くほど優しくしてくれた。



 いけない事だと分かっていた。

 しかしユースティティアは、どうしようもないほどキリクスに、心を奪われてしまった。


 


 *



 ユースティティア・アルコイリス・オプスキュリテ。

 大帝国オプスキュリテの、第1皇女。

 


 異母妹であるエリスによって、皇后で母のフロアレは、恐ろしい呪いを掛けられ、深い眠りについて3年も目覚めずにいる。




 『私はね、ユースティティアお姉様。

 いつでも皇后フロアレ様の命を奪うことができるのよ。

 だからどうすればいいか分かるわよね…?』



 フロアレの命を守る為には、エリスの言うことを聞かざる得ない。



 そうしてユースティティアは、必要に応じて姿をエリスに変えさせられた。

 エリスはユースティティアの姿となり、周りに極悪非道な行為を繰り返し、悪女だという噂を広めていった。



 一方のユースティティアはエリスとなり、粗末なドレスを与えられたり、食事を抜かれたりした。

 時にはエリスと共謀した皇妃クリュタイメストラに、虐待されることもあった。



 それでも。お母様の為だとユースティティアは懸命に耐えた。


 

 この日、ザイン帝国から、ユースティティアの婚約者であるアドニスと、エリスの婚約者、キリクスが訪問してきた。

 彼らは少し長めの滞在予定で、その日も彼らを招いた披露目会などが開催されていた。



 初日に挨拶を済ませた後は、ユースティティアはエリスに強制的に姿を変えさせられ、晩餐会には来ないようにと命令されている。



 城では今頃ユースティティアのふりをしたエリスが、キリクスやアドニスらに、無礼な振る舞いをしている頃だろう。

 それを止める手立てもなければ、母を助ける皇帝もいない。



 (昼間にエリスに打たれた左頬がまだ痛い)



 そんな時会場を抜け出したキリクスと偶然庭で出会った。

 彼は風の魔力を使って、ユースティティアの腫れた頬を癒してくれた。



 (なんてお優しい方なのだろう)



 愛想のないユースティティアの身体のことや、境遇すらも親身になって考えてくれている。

 けれどこの姿では、きっと妹のエリスだと思ってるだろう。


 (でも、こんな方にお会いしたのは初めてだ)



 少し癖っ毛のあるアッシュブラウン色をした髪に、優しい満月を連想させる琥珀色の瞳。

 幼いながらも凛々しく、品のある立ち振る舞い。

 きっと人知れず努力を重ねられてきたのだろう。



 キリクスもザイン帝国内では、冷遇されている皇子だと聞いていた。



 本当は光属性の魔力を使うことは皇妃に禁止されているのに、傷を治してくれたキリクスの傷を癒したくて、つい行使してしまった。




 「約束します。

 10年後…俺が誰よりも貴方を幸せにすると。」




 「はい……。その約束、心からお待ちしています。キリクス様。」




 思わず返事をしてしまった。



 (私はエリスじゃない)



 「……!」



 「あの、大丈夫ですか?エリス様…」



 「ご、ごめんなさい、あの…嬉しくてつい…」



 気がつくと、キリクスは困ったような顔をしながら、ユースティティアの手を取りキスをしていた。

 泣いているユースティティアに困惑した結果だろう。



 このままではキリクスに迷惑がかかってしまう。

 けれどユースティティアはどうしたらいいか分からなかった。

 嘘をついているのが悲しくて、涙が溢れて止まらなかった。



 こんなにも心底エリスを羨ましいと思ったことはない。



 (私、キリクス様を好きになってしまったのね)



 エリスの姿だけど、本当はエリスじゃない。

 本当は自分がユースティティアだと、キリクスには伝えたかった。

 自分は貴方の本当の婚約者じゃないと。



 言いたいのに、自分の正体を明かせずにもどかしさが募る。



 (こんな事なら、本当にエリスになりたい)



 ユースティティアは、心底キリクスの婚約者になりたかった。



 (——こんな想い知らなければ良かったのに)





 ———神が哀れと思い、ユースティティアに味方してくれたのか。

 10年後。婚約者がキリクスに変わった。

 もう死んでも良いと思えるほど幸せだった。




 けれどそんなユースティティアに、キリクスは凍えるほど冷たかった。

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