変わっていく未来
ふいに今は亡き母の面影が蘇り、キリクスは思わず泣きそうになる。
それを見たフロアレは手を伸ばし、アッシュブロンドで少し癖っ毛のキリクスの髪を撫でた。
「寂しくなったら、いつでもこの皇后宮にいらっしゃい。」
そう言ってフロアレは、また慈愛に満ちた目をして微笑した。
(回帰して本当に良かった——————)
キリクスは未来で、自分がユースティティアにしてしまった事を今だに悔やむ。
だが、こうして真実を知れた事に感謝していた。
フロアレの目が覚め、ユースティティアも解放されたし、あのまま本当の悪女に騙されている未来が来なくて良かった。
心優しい2人の親子が救われて本当に良かったと、振り返った。
*
自分に守りたい者ができたキリクスは、ザインに帰ってから、死に物狂いで勉強をした。
元々のキリクスは魔術以外に興味がなかったが、自分磨きを始めた。
周囲からの評価を上げることで、ユースティティアの婚約者に選び直されないかと考えた。
学校では常に良い成績を収め、皇族教育では剣を学び、護身術を覚えた。
政治や歴史など幅広く学んだ。
もちろん魔術については、今知っている知識の更なる上を追究する。
皇后のどんな嫌がらせにも屈することもなく。
それでも盤石ではない身分のせいで、ザイン帝国に縛られて会えない間は、渡した魔石のブレスレットでユースティティアと会話を楽しんだ。
「ユースティティア様。俺はあなたとこうやって一緒に過ごす時間が、とても幸せです。」
『そんな。恐れ多いですわ、キリクス様。
…私や母を助けて下さった貴方には、本当に感謝してもしきれません。
それに私も、キリクス様とこうやってお話ししたり、一緒に楽しく過ごせることを、心から嬉しく思っています。』
「ユースティティア様。もし……」
『…どうされましたか?キリクス様。』
「…いえ、何でもありません。」
キリクスは言い掛けた言葉を飲み込んだ。
危うく回帰前、自分達は夫婦だったんですよ…と言いたくなってしまった。
そんな事を言われても、まだ幼いユースティティアだって困ってしまうだろうし、キリクスが噂に惑わされて冷たくしていたせいで、夫婦仲は破綻していた。
だからユースティティアに感謝されるような立場ではないと、自覚している。
けれど。こうして回帰後が別のものへと上書きされていくことで、僅かながら明るい未来が見えてくる。
キリクスはこうやって、ユースティティア守りながら、皇帝やアドニスを納得させた上でいつかは彼女と婚約したいと思っていた。
願望は日毎に膨らんでいくばかりだ。
————あのハウオリの木の下で、キリクスがユースティティアに出会ってから、8年の月日が流れようとしていた。
Frozen blue rose《凍てつく青薔薇》の悪女と呼ばれたユースティティアは、果たしてどうなったのか—————————?
【ハウオリ】
意味・幸福・ハワイ語。
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