5 変わっていく未来
変わっていく未来
*
(——————なぜ)
「なぜクラスィーヴイーを斬ったんだ!
なぜ…!!
答えろ、ユースティティア…!!」
幼い頃からキリクスの護衛を務め、結婚してからはユースティティアの専属護衛をしていたクラスィーヴイー。
その彼が血を流し、命の灯火を燃やし尽くそうとしていた。
紫色の護衛服は血で赤く染まり、抱き上げたキリクスの手や服までも染めた。
側にはクラスィーヴイーを手に掛けた、オプスキュリテ側の兵が血の付いた剣を握りしめている。
「…で…んか。殿下…どう…か…私のために…悲しまない…ください。
…そし…て…ユースティティ…ア…さまを…どうか…
いま一度よく…見てあげて…下さ……」
「…死ぬなクラスィーヴイ————!!」
「………キリクス様、私は………」
「この残虐非道な悪女め…!!許さない!
よくもクラスィーヴイーを!お前を絶対に許さない………
ユースティティア!!」
息を引き取ったクラスィーヴイーの身体を抱き、キリクスは殺意の篭った目でユースティティア睨みつける。
(殺してやる!!)
(絶対に、この女を殺してやる……!!)
(俺から大事なものを次々と奪っていくユースティティアを!!!)
あの時は怒りで我を忘れ、クラスィーヴイーの最後の言葉の意味を、考える暇さえなかった。
(クラスィーヴイー
いま一度ユースティティアに目を向けろとは
あれは一体どう言う意味だったんだ?)
*
酷い夢を見て、キリクスは目を覚ました。
あれは回帰前に実際に起きた事だ。
今ならあれが、ユースティティアに化けたエリスの仕業だったのだと分かる。
昨日エリスをあと一歩というところで追い詰められなかったせいか、悪夢を見てしまった。
キリクスは、横のベッドで寝ているアドニスを起こさないようにそっと立ち上がった。
明るい日差しが窓辺を染め上げていた。
ついに今日、滞在期間を終える。
このオプスキュリテ城から自国ザインに戻らなければならない。
これから長いこと、ユースティティアには会えなくなる。
それでも命をかけて回帰したことに、キリクスは確かに意味があったと思っている。
皇后フロアレも黒魔術から解放された。
あの誓約書がある限り、虐られ、悪女の汚名を着せられていたユースティティアを、エリスや皇妃の魔の手から守る事はできるだろう。
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「それでは、オプスキュリテ皇帝陛下、並びにクリタイメシュトラ様、ユースティティア様、エリス様。
楽しいひと時であった事を心より感謝いたします。」
皇宮の正門前で、ザインを代表してアドニスが別れの挨拶を済ませると、オプスキュリテ皇帝がしわくちゃの手で握手を交わす。
「とても有意義なひと時であった。
ザイン国の第1、第2皇子たちよ。
10年後、そなた達の元に我が娘たちが嫁ぐのを心待ちにしているぞ。」
そこには皇帝の他に、皇妃クリュタイメストラ、エリスの姿もあったが、2人がキリクスを見る目は恨みに満ちていた。
(——回帰前、ここにエリスの姿はなかった)
この時も、エリスがユースティティアに成りすまし、散々キリクス達に暴言を吐いたのを覚えている。
だが今回は、それまでの苦痛を全て忘れ去ってしまったように、美しく微笑むユースティティアの姿があった。
確実に過去が変わっている証拠だ。
「アドニス様、並びにキリクス様。
この度は誠に楽しい日々をありがとうございました。
またお会いできる日を……心待ちにしております。」
そう言って皇女らしく、礼儀正しい所作をするユースティティアとキリクスは握手する。
「キリクス様。どうかお元気で。
またお会いしましょう。」
「ええ…喜んで。」
(また またすぐ君に会いたい)
(———というより、明日にでも会いたい)
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