断罪
ようやくエリスはことの重大さに気がついたらしい。
「はっ?嘘でしょう!?あの魔術が解ける筈が…」
自らの罪を自白したようなものだが、慌てふためく様子がなんとも悪女らしかった。
「嘘だと思われますか?
何なら。今この魔石で皇后様と通信なさっても構わないですよ?」
左手に目を遣り、キリクスは腕輪を発動させる。
動揺を隠せないエリスの目の前で、腕輪に話しかけた。
「ユースティティア様。
皇后様の様子はどうですか?」
『キリクス様…?
はい、今はとても落ち着いて、今日は僅かながら水をお飲みになりました。』
腕輪から聞こえてきたのは、紛れもなくユースティティアの声。
いつでも安否を確認できるようにと、昨日のうちにキリクスが対の腕輪を渡しておいたのだ。
それを聞いてエリスとクリュタイメストラ皇妃の顔が、さらに真っ青になった。
「良かった。
ユースティティア様。もし可能なら、皇后様の声を少しだけお聞かせくださいませんか?」
『…?分かりました。』
『…ユース…ティティア…?
ここは……私はまた、眠って…いたの…かしら』
「!!」
弱々しい皇后の声が、腕輪を通して応接室に響き渡る。
エリスと皇妃はこれまでで一番動揺した顔をした。
*
———昨夜の皇后宮にて。
声が枯れるほど泣いていたユースティティアは、ようやくキリクスの腕の中で平静さを取り戻した。
「キリクス様。お母様にかけられた呪いは。
本当に解けますか…?」
「言ったでしょう。俺は不可能なことは、できると言わないと。」
ユースティティアの泣き腫らした顔を見つめ、キリクスは穏やかに微笑んだ。
———————————
ユースティティアの母親——————
皇后フロアレは、もう3年近く魔術によって意識を失っていたらしい。
その間に生気を奪われ続けていたので、肉体的にも精神的にも弱り切っていて、いつ死んでもおかしくない状態だった。
ユースティティアはその状態の皇后に、自身の魔力を使い、生命力を絶やさない様にしていた。
そのお陰で皇后は生きながらえていたのだ。
だがその命すらいつでも終わらすことができると、エリスは笑って言ったという。
だから入れ替わりのことや、魔術のことを誰かに暴露すれば皇后の命はないと。
キリクスは皇后の脈を見て、それから魔術の構造を読み解き始める。
張り巡らされた複雑な形式の術が皇后の体を覆っている。
やがて、これが古代の失われた黒魔術だということが分かった。
なぜエリスがそんな高位魔術を使えるのかが分からないが、キリクスはその一つ一つを解く様に解析していく。
幼い頃はこうもいかなかったが、回帰して魔術の知識がそのまま備わっていたことは、かなり有難い。
魔術は魔力を利用する知識と、技術を合わせたもので、その構造さえ理解できれば解除も容易い。他の者は無理だが、キリクスにとっては朝飯前だ。
それから時間は要したけれど、解除する術式を展開させ、皇后にかけられていたエリスの魔術を破壊した。
万が一に備えて、破壊したことを悟らせないように細工も施しておいた。
「お母様…!!」
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