4 罪を暴く
断罪
*
悪女ユースティティが、アドニスを毒殺し、キリクスとの離婚が決まった。
『キリクス殿下。
ユースティティア様……
いえ、あの悪女の部屋からこのような、宛先の書かれていない大量の手紙が見つかったのですが…いかがなされますか?』
未だ事件による裁判が続く中。
薔薇宮内のユースティティアが使っていた部屋を掃除をしていた侍女が、困ったように持っていた大量の便箋。
その中の手紙が一枚、侍女の腕をすり抜けて、キリクスの足元に滑り落ちた。
【……を愛しています。〜fromユースティティア】
手紙の端にそんな字が見えて、キリクスは不快感を募らせた。
ユースティティアはアドニスが好きで、嫉妬から彼を毒殺したと言われている。
ということは大量の手紙は全部アドニスへの想いを書いた手紙だろう。
これだけの数ならもう何年も前から書いていたに違いない。
このようなラブレターを、エリスという妻がいるアドニスに書くなんてやはりあの女は狂っている。
怒りをぶつける相手を間違っているとは思いながらも、キリクスは侍女に向かって吐き捨てた。
「…燃やせ。灰さえも残らないように。」
*
オプスキュリテ帝国の城に滞在して
ユースティティアを守ると約束した翌日に、
キリクスは再び皇帝の許可をもらい、応接室にエリスと、クリュタイメストラ皇妃を呼び出していた。
そこに同席してもらったのはアドニス、そしてクラスィーヴィーとサボプ。
キリクスとアドニスに対面するソファに、エリスとクリュタイメストラ皇妃が腰掛けている。
その中心にあるテーブルの上に魔石を置いた。
そこから流れる映像を、2人に突きつけた。
記録した映像は、繰り返し再生可能だ。
「…これはっ…!」
先に真っ青な顔で声を上げたのは皇妃である、クリュタイメストラだった。
「あ…キリクス皇子…!これは何かの間違いです。
私の可憐なエリスが、この様にユースティティア皇女に姿を変えるはずありません!
きっと、ユースティティア皇女が何か企んでいるんですわ…!」
「この映像を見て、言い逃れを?
俺は実際にエリス様が、ユースティティア様に姿を変えた場面を目撃しているんですよ。」
神妙な顔でキリクスは問い詰める。
その隣にいるアドニスにも冷たい目で見つめられ、クリュタイメストラ皇妃はガタガタと身体を震わせた。
「この映像には、確かにエリス様がユースティティア様に姿を変える場面が映っています。
皇女宮への出入りに、晩餐会に行く様子が映し出されていますよね。
そしてもう一つは皇后宮に入っていくユースティティア様の姿です。
同時刻に存在している2人のユースティティア様。
これが何なのか説明できますか?
我がザイン帝国の魔石には、ご存知の通り映像と共に日付を記録する機能も備わっているので、真実を偽ることはできませんよ。」
「………」
「皇妃様。私の弟キリクスは、恐ろしく頭の良い子です。
この映像が嘘偽りでないのは、ザイン帝国の第1皇子であるこの私が保証しましょう。」
重苦しい表情で横のアドニスが口を開いた。
普段は温厚だが、こういった企みや悪事には厳しい人だ。
上手くクリュタイメストラ皇妃を追い詰められている。
やっぱりアドニスに真実を打ち明けて良かった。
もしこれが1人だったら、権力のない皇子の戯言と、いいように逃げられた可能性もあるから。
だが、当のエリスは微動だにしなかった。
黙々とこの状況を伺っている。
「それでもっ!私の娘であるエリスが、ユースティティア皇女に姿を変えたと言うには疑問が残るわ!
もしかしてその逆の可能性も…!」
何とか真実を誤魔化そうするクリュタイメストラ皇妃が、ついにその場に立ち上がる。
「逆…?
確かエリス様の魔力は「闇」ですよね。
この、変身する時に放たれた魔力は闇の魔力では?
ユースティティア様が持つ光の魔力の欠片は、一つもありませんよ?」
「どうしてそれを!?」
これだけ慌てると言うことは、やはりユースティティアとエリスの魔力を両方とも隠していたという事だ。
色々と都合が悪いから。
闇の魔力を持つと知れたら、キリクスの婚約者候補からも外れたとしても可笑しくはない。
オプスキュリテ皇帝の皇妃、クリュタイメストラは、略奪を得意とする国家のリベルテの王が、戦争で略奪したジプシーに生ませた身分の低い王女。
売られるも同然に、この国オプスキュリテ皇帝の皇妃になった女性だ。
自身も身分の低い皇妃であることから、娘であるエリスの身分もまた低いとされている。
そんな彼女にとって、オプスキュリテに並ぶ大国パハルから嫁いできた、正当な王女の現皇后やその娘であるユースティティアは、邪魔な存在でしかなかったのだろう。
「皇子様、何が目的でしょうか?」
恐る恐るこちらを伺う、クリュタイメストラ皇妃。
あの時、ユースティティアに鞭を振るっていた同一人物とは思えない。
この皇妃だと、せっかくの威厳も台無しだ。
「皇妃様とエリス様が、ユースティティア様を虐待していたという噂を広めたくなければ、これ以上ユースティティア様を虐げるのをやめて頂きたい。
それが俺からの条件です。」
「ハッ。そんなことで。
たった一、二度会ったユースティティア皇女をよくもまあそんなに信用したものですね。
感心しますわ、キリクス皇子。」
呆れた様にクリュタイメストラは笑うが、それが大帝国の皇妃の姿とは思えず、何とも滑稽だった。
「皇后様の———お身体が心配ですわね。
最近ますますお痩せになられていると言われてますので……」
ようやくエリスが口を開いた。
それも目元は、まだ何か悪事を企てるように笑っている。
(脅しか?)
(私を脅せば、魔術で皇后をどうとでもできるんだぞ、とでも言うような)
やはりそれがエリスの切り札で、皇后の命を握り、ずっとユースティティアを脅していたのだ。
「ああ。それについてはご心配なく。
魔術は解除されましたので。」
キリクスが自信を持ってにっこりと微笑むと、ようやくエリスの自身に満ちた顔が崩れ去った。
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