証拠を集める

 「え、き、キリクス様…!?」



「驚かせてごめんなさい。ユースティティア様。」



 当然ながら部屋にキリクスが侵入していたのを知ったユースティティアは、驚愕した。



 「何故ここに。いえ、それよりも私はユースティティアではありません!」



 混乱して慌てふためくのはこの時間は、おそらくエリスの姿を強要されていたのだろう。

 コバルトブルーの髪や、ブラウンの瞳を隠そうとする彼女の手首をそっと掴んで、キリクスは告げる。



 「もう、エリス様の姿じゃなくても大丈夫ですよ。

 貴方がエリス様に強要されて、定期的に姿を入れ替えられていることを、俺はもう既に知っていますから。」




 「………なぜ。」



 体は硬直している。ユースティティアは驚いた目でキリクスを見つめ返した。



 「貴方が気になるからです、ユースティティア様。」



 キリクスは極力怖がらせないように微笑んだ。



 それからもう片方の手で、眠っている皇后の額に手を当てる。

 本当に皇后には複雑な黒魔術﹅﹅﹅がかけられていた。



 確かにこれは人間の生気を吸い取るという、呪いに近いものだ。





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 「教えてくれませんか?ユースティティア様。

 皇后はエリスのかけた呪いで眠っているのですか?

 それで皇后の命を脅かされて?

 だから貴方は、エリスに汚名を着せられても黙って従っているのですか…?」



 全身の力が抜けていくように、ユースティティアはその場にストンと座り込んだ。

 母親である皇后の命を握られ、これまで張り詰めた緊張の中で1人ずっと耐えていたのだろう。



 寵愛を失った皇后の身に何が起きても、皇帝が動かなければ誰も助けてはくれない。

 キリクスの母親が死んだ後が、そうだったように。

 その辛く孤独な気持ちが、キリクスには痛いほど分かる。



 「……はい。」



 「……お辛かったですね。ユースティティア様。」



 「………はい。」



 「よく1人で耐えてこられましたね。」



 「お母様にかけられた呪いが、私にはどうしても解けません。

 私が言うことを聞かなければエリスはお母様を…だから…私は……」



 「確かに。

 これは優秀な魔術師でも簡単に解ける呪いではないようです。

 ですが……」



 絶望と驚愕を繰り返すユースティティアが、キリクスの顔をじっと見つめている。




 「これは俺なら、解けると思いますよ。」




 なぜならキリクスは、10年後にユースティティアを幸せにしようと死ぬほど努力し、ザイン一魔術を極めた皇子だったからだ。

 かの有名な北の亡国トルメンタ帝国の伝説の魔術師、ディー・ハザック・ストレーガ公爵にも引けを取らないだろう。



 「……本当に?

 ……お母様は助かりますか?」



 「はい。俺はもしも不可能なら、できるなんて嘘はつきませんから。」




 「……あ。……っ。私は……ずっと……ずっともう何年も……」



 「1人で頑張ってきたんですね。

 大丈夫、もう1人じゃありませんよ、ユースティティア様。

 これからは俺がいます。

 俺は貴方の味方です……。」



 「…………ッ。」



 必死に堪えていた全ての系が切れて決壊したように、ユースティティアの瞳から大粒の涙が溢れた。



 「………ずっと君を悪女だと決めつけていて、ごめんなさい、ユースティティア様。

 これからは俺が貴方を守ります。」



 壊れたように泣き続ける幼いユースティティアを、キリクスはそっと抱きしめた。


 

 必死に感謝を伝えようとしている、囁くような声がキリクスの耳元に響く。




 「…ッ。クス様……キリ…ス、さま。あ、ありが…ありがとう…ございます………あり…が…とう…ッ……」




 (ユースティティア)



 (こんなに母親想いの優しい君が、悪女のわけがない)



 悪女はエリスだった。

 ユースティティアをこんな風に傷つけたエリスと皇妃。

 どちらも許せない。



 本物の悪女たちに今度はユースティティアが反撃する番だ。キリクスは決意を新たにする。

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