証拠を集める
キリクスはアドニスに先に会場に入ってもらい、ユースティティアの映像記録を引き続き撮ってもらうことにした。
ザインで独自に開発された、映像記録を撮る魔石のピアスなら、目で追うだけで見たいものを映像に記録できるし、誰かに疑われることもない。
そうしてエリスがユースティティアに成りすまし、傲慢で非道な振る舞いをしているのを記録しているうちに、キリクスの方は本物のユースティティアに会うことにした。
かと言って、オプスキュリテ城を他国の皇子が嗅ぎ回っているとバレたら面倒だ。
なので今回は魔術を使い、自身の姿を他人から見えないようにした。
大人になってからしか使えなかった複雑な魔術が、魂がそのまま回帰したおかげで不便なく使えたのは幸運だ。
ユースティティアの皇女宮に辿り着くと、眠そうな衛兵のいる横をすり抜けて、ユースティティアの部屋へと急いだ。
*
彼女が見当たらない。
「どこに行ったんだ…?ユースティティア。」
確かに侍女に任せて送り届けたはずのユースティティアの姿が、見当たらない。
寝室の布団はまだ暖かい。
出て行ってからそれほど時間は経ってないはず。
いくらキリクスが魔力で傷を癒したといっても、相当体力を消耗しているはずなのに。
見渡せばユースティティの部屋は、外見は豪華に見えたが、クローゼットや周囲にそれほど高価な物は見当たらず、かえって質素なものだった。
(机の引き出しが開いている—————)
キリクスは、手前にそれを引き出した。
「手紙?」
そこには絵葉書が入っていた。
悪いと思いながらもキリクスはそれを手に取り、裏返した。
【Dear・キリクス様へ
拝啓。エリスの婚約者で、ザイン帝国の第2皇子、キリクス様。
キリクス様は本当に思いやりがある素敵な皇子様でした。
出会えてよかった。
あなたと触れ合えたほんのわずかな時間が、ほんとうに幸せでした。
けれどあなたはエリスの婚約者。
私が本当のエリスだったら。
こんな気持ちにならずに済んだのに。
この気持ちは一生伝えることはないでしょう。
from ユースティティア。】
(これは、まさか俺に宛てたラブレター?)
「っ!」
それを読んでしまったキリクスは、まるで本当に少年に戻ってしまったかのように、顔を真っ赤に染めた。
確かに体は少年だが、中身は青年なのに。
ユースティティアがキリクス宛に、まさかこんな情熱的なラブレターを書いていたなんて思ってもみなかったからだ。
もちろん驚いたが、想い人の気持ちを知れたことが正直嬉しかった。
(そうか この時はまだ俺はエリスの婚約者だったから)
(勝手に見たことはいつか正直に謝ろう
それにしても、この絵葉書の模様はどこかで)
「…か。殿下、聞こえますか?」
「ああ、聞こえてるよサボプ。
今どこに?」
声の主はクラスィーヴイーの代わりに自身につけた護衛のサボプだ。
実はサボプにも魔石の腕輪を渡し、こちらは万が一に備えて、本物のユースティティの監視をしてもらっていたのだが。
「今、現皇后様の離宮にいます。
ユースティティア様は、皇后様の部屋に入ったきりお戻りになられません。」
「分かった。急いでそちらに向かう。
ありがとう。お前はそれ以上は危ないから、
兄上の護衛に戻ってくれ。」
「はい、殿下。」
連絡はそこで途切れる。
キリクスは周りから見えない状態を保ったまま、ユースティティアの母親のいる皇后宮へと急いだ。
———映像記録ができる魔石は、日付と時間まで正確に記録するため、ザインでは犯罪が起きた時の物的証拠として用いられることが多い。
それを発動させながら皇后宮からユースティティアの魔力を辿り、皇后とユースティティのいると思われる部屋の扉を開ける。
証拠を残す必要があるため、まだ姿は隠しておきたい。
幸い施錠はされてない。
物音を立てないようにキリクスは中に入る。
そこでようやく、ベットに横たわっている現皇后と、皇后の手を握りながら、啜り泣いているユースティティアを見つけた。
(無事で良かった———)
泣いてはいるが、塔で見つけた時より顔色は悪くない。
それに今はユースティティアの姿のままだ。
これで確実に、同時刻にユースティティが2人いたという証拠を抑えられる。
「…お母様。どうしたら目を覚ましますか…?
私は本当に無力な皇女です。
あなたにかけられているエリスの呪いを解除することができません。
これがある限り私は、皇妃とエリスの命令に逆らえません。
……どうしたらお母様をお救いできるのでしょう。」
(なんだって?呪い?)
(皇后は呪いをかけられているのか?)
証拠は集められたのに。キリクスはどうしても悲しそうに啜り泣くユースティティアを放っておくことができなかった。
ついに魔力を解き、キリクスはその場に姿を現した。
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