驚きの真実

 そう言って頬を染めるエリスだが、もしエリスが噂通り純粋で優しい皇女であるなら、自分の姉であり皇族でもあるユースティティアを、こんな簡単に貶めるようなことは言わないだろう。


 

 もしこれが本物のユースティティアだったなら、鈴が鳴るような小さな声でしか語らず、肝心なことを沈黙をするような振る舞いをしていただろう。

 だから明らかにこちらは、悪どいエリスの方だと分かる。



 それにユースティティア側にも何か特別な事情があって、そうせざる得ないのかも知れない。

 


 (そう言えばユースティティアの母親のことを言っていたな)





 キリクスは、目の前にいるエリスの本心を引き出すため、心から同情しているような目をした。



 「そう…なんですね。可哀想なエリス様。

 虐待されていたというのなら、その傷跡を俺に治療させてもらえませんか…?

 俺は風の魔力があるので傷を癒すことができますよ。」



 あの夜出会ったエリスの姿をしていたユースティティアには、頬だけでなく袖の隙間や足元にはできたばかりの様な痣がいくつもあった。



 自分で傷を治すことなど全く考えてもないようだったから、キリクスと同じで無駄だと思い、虐待の傷を放置してきたはずだ。

 だからあれほどの多くの傷や痣が短期間に治ったとは考えにくい。



 「あ、私はその。

 いいんですっ、キリクス様にそんな無様な傷痕をお見せするわけにはいかないので…ッ」



 途端に慌てる様子が明らかにおかしい。

 明らかにエリスが動揺しているのが分かる。

 まさか傷痕を見せろと言われるとは、思ってもみなかったのだろう。



 「なぜです?

 俺は婚約者である貴方が心配でたまりません。ですからどうか傷痕を見せて下さい。

 そうすれば俺が…」



 「結構ですわ…!」



 ソファから立ち上がり、キリクスがエリスに触れようと手を伸ばすと、エリスは抵抗心をむき出しにし、その手を払い退けた。



 (———やはり

 どんなに嘘をついて人を騙そうと、演技を続けようと、所詮はまだ子供だ)



 傷を見せたがらないのは虐待された跡がないから。

 つまり本物のエリスが嘘をついていたという証。



 「エリス様、不快でしたか?

 申し訳ありません。

 …そうですよね。ザイン帝国の無能な第2皇子である俺なんかが、高貴なエリス様を助けるだなんて烏滸おこがましいことですよね。」



 「…そ、そんな、違いますわ…!」



 「いいんです。俺が無礼でした。お許し下さい。

 ところで、小耳に挟んだのですが…エリス様も珍しい魔力をお持ちのようですね。

 もしエリス様さえよろしければ、その魔力を俺に見せてはくれませんか?」



 先程の悪態を考えれば、これ以上エリスはキリクスの提案を断れない。



 「わ、私は、魔力が弱いのです!だから…」



 「弱くても構いませんよ。気になるエリス様のことなら何でも知っておきたいのです。」



 有無を言わせず和かに笑い、キリクスはエリスの隣にそっと座った。



 暫く渋い顔をしていたが、エリスはついに観念し、自身の手の平に魔力を生み出した。



 禍々しい暗い色をした光り。

 無音ながらも辺りを押し潰すような圧が、ヒシヒシと漂ってくる。



 一見すると褐色で土の魔力のようにも見えるが、おそらくこれは闇の魔力だろう。

 あの時、ユースティティアからエリスに姿を変えた時と同じような波長を感じる。



 闇の魔力は欲深い者に発現しやすいと言われている。

 そして人は、異なる属性の魔力を同時に持つ事はできない。



 (———これで決まりだ)



 本物のエリスは闇の魔力持ちで、光の魔力は使えない。

 あの夜出会ったユースティティアこそが、光の魔力を使う、純粋な心の持ち主だ。



 つまり本物のエリスは、時と場所を選んでユースティティアになったり、エリスになったりするということだ。

 必要に応じて、ユースティティアにも入れ替わりを強要しているのだろう。



 ユースティティアになる時は彼女を貶めたいとき。



 エリスになる時は自分が可哀想だと同情を集めたい時。



 (なる程、そうやって人々の心を操作してきたんだな………)



 (幼いうちから、何とも悪どいな)






 「今日はありがとうございました。エリス様。また近いうちにお喋りができると良いですね。」



 別れ際、キリクスはエリスに微笑んだ。



 エリスが姉のユースティティアに成りすまし、彼女の立場を貶め、自身の評判を高めるために悪行をしていたことが確実になったから。

 


 (あの時、自分の目と耳で聞かなければ、今だに騙されたままだった!)



 衝撃の真実を確信したキリクスは、ふとその場に現れなかったユースティティアのことを思い浮かべた。



 (本物のユースティティアは、今どこで何をしているんだろうか?)

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