驚きの真実



 オプスキュリテ城の貴賓室の宿泊部屋で、キリクスはベッドに座りながら、対のベッドにいる兄のアドニスと向き合っていた。

 


 毒殺されたアドニスの幼少期に再び出会えた喜びは大きいものの、先ほどの中庭での出来事が一向に頭から離れていかない。



 居ても立ってもいられず、キリクスはアドニスに思わず尋ねた。



 「…アドニス兄さん。

 その…兄さんの婚約者であるユースティティア様をどう思いますか?」



 ふと、顔を上げたアドニスが苦笑いをした。



 「…正直、あまり大きな声では言えないけれど彼女の横暴な態度は目を見張るばかりだよ。

 …自分が一番の美人だとか言って、他の貴族の娘たちを卑下する表現を口にしたり、出された料理がマズイとかで、会場に宮廷料理人を呼び出して皆の前で罵ったり、ザイン帝国から婚約の証として献上した品が安物だと言って嘲笑ったり…

 あんな女性が私の婚約者だなんて…」



 普段第1皇子として完璧な振る舞いをしているアドニスも、心底ガッカリしたようにダークブロンドの髪を揺らしながら項垂れた。



 だが、今夜ユースティティアとして会場でその傲慢な振る舞いをしていたのはエリスだ。

 その真相を知ったキリクスも今なら分かる。



 (———兄さんは滅多に人の悪口を言わない)



 そのアドニスがこれほどまでユースティティアを嫌がっている様子を見ると、エリスがユースティティアの評判を落とし、アドニスに嫌われるという目論見は見事に成功していると言える。




 「キリクス。お前はどうだ…?

 エリス様は顔合わせの初日以降、お披露目会にも参加していなかったが…どんな方だ?

 お前は彼女なら妻にできそうか…?

 見た目は可憐だし、皆が言うには心がとても純粋な人だと聞いたが…」



 その問いにキリクスは迷わず首を振ってしまった。




 「いや、無理です。エリス様は……」



 「?」



 言いかけた言葉をキリクスは引っ込めた。

 こうなってしまったものの、まだ真相がはっきりとしない。

 今無闇にアドニスに打ち明けても、かえって混乱させてしまうだけ。



 キリクスはもう少し確信が欲しかった。

 エリスがユースティティアに成りすまし、悪行を働いたという確信が。



 それに、正当な第1皇女であるユースティティアが、エリスの横行を止めようとしない、その理由も突き止めたいと。




 「兄さん。好きかどうかは別として、確かにエリス様は俺の婚約者だし、エリス様をもう少し詳しく知りたいと思っている。

 だからできるなら、エリス様と二人きりになってみたいんだ。

 もしよかったら、兄さんから皇帝陛下に頼んで貰えないかな?」



 「…いいだろう。

 滞在期間はあと数日残っているし。

 オプスキュリテの皇帝も、我がザイン帝国の資源が欲しくて俺達を婚約させたのだから、そのくらいの願いなら聞いてくれるだろう。」



 アドニスはすぐさま頷く。それから相変わらずキリクスに優しく笑いかけた。



 (やはりアドニス兄さんは優しい)



 (この優しい兄さんを…悪女には殺させない)



 (……絶対に!!!)






 *




 ——後日。オプスキュリテ皇宮・応接間。




 「キリクス様。私と個人的にお喋りがしたいと聞き、参りました。」



 声がピンと張るのが分かる。

 緊張というよりは、自分をよく見せるための張り方。



 アドニスのおかげでオプスキュリテ皇帝に許可を貰い、キリクスはエリスと一対一で対話することになった。



 しかしキリクスが今日この場を設けたのは、エリスが悪女かどうかの証拠を掴むため。

 そしてこの場に現れたのは、どうやら本物のエリスの方だった。

 姿形を変えることは出来ても、どうやら声は変えられないらしい。



 あの鈴の音のような優しい声は、このエリスからは聞こえてこないのだから。

 これほど明確な証拠はない。




 「エリス様。座って下さい。

 今回はこのような場所に呼び出してしまって申し訳ありません。

 …ですが俺は、貴方を見た時から気になってしまい、一度でいいから二人きりで話したいと思っていました。」



 目の前に現れたエリスの髪は金色に瞳は灰色。

 見た目だけでは本当に2人の違いは分からない。

 服はあの夜のように質素で、ソファに腰掛ける姿も弱々しく、しおらしく振る舞っている。




 「嬉しいです、キリクス様。

 実は私…いつもお姉さまに虐められているのです。

 お姉さまはいつも私を鞭で叩き、薄暗い部屋に閉じ込めます。

 城の者たちに私を無視するようにと命令しているんです。

 姉は、とても冷たく惨い人なんです。

 そんな私に好意を寄せてくれるキリクス様のお気持ちが、本当に嬉しいですわ。」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る