2 悪女の真実
驚きの真実
*
「キリクス様。そこだと身体が冷えてしまいますわ。どうか、こちらへ…」
不気味なブラウンアイが、闇の中で魔石の仄かな灯りに照らされていた。
贅沢な品物ばかりが並んだ、悪趣味な部屋。
キリクスは全てにうんざりしていた。
「結構です。
俺はあなたとは寝たくありませんから。」
ザイン帝国皇帝が、2人の新居にと建てた青薔薇宮の寝室で、キリクスはユースティティアの誘いを断固として断り、いつものようにソファに横になる。
今日もキリクスの側近1人が、このユースティティアの手によって処刑された。
罪状は、ユースティティアに盾突いたから、という理由だったらしい。
大帝国オプスキュリテに政略結婚の道具として皇女たちを娶らされた、キリクスと兄のアドニス。
聖女と言われるエリスとは違い、毎日のように繰り返されるユースティティアの我儘や、非人道的な行いによって、側近らの怒りは頂点に達していたに違いない。
間違いを間違いだと言ったのだろう。
——酷い処刑の方法だったと聞いた。
(俺が政務補佐で皇宮に赴いている間に…
本当に悔しくてやり切れない……!)
こんなことになっても、ザイン帝国が衰退しているが故に、ユースティティアの横暴を止められない。
この帝国はオプスキュリテの言いなりだ。
キリクスは怒りに震え、何もできない自分を恨んだ。
(俺は本当に無力だ)
名ばかりの第2皇子で、皇位継承権もなければ動かせる私兵もいない。
妻となったユースティティアを罰することもできない。
同じ部屋で眠るというだけでも吐き気がする。
(こんな悪女、いつか法の元で裁かれて死んでしまえばいいのに…!!)
それなのに。ユースティティアは常にキリクスを熱い瞳で見上げていた。
(悪女のくせに……何でそんな瞳で俺を見るんだ?)
(これだけ強い拒絶をされているくせに、なぜ俺の背中を見つめたまま立ち去ろうとしない?)
ユースティティアがキリクスではなく、アドニスに恋慕しているのは知っている。
だから余計に、キリクスはユースティティアに熱のこもった瞳で見られると腹が立った。
(俺を誘惑するなんて考えるな、ユースティティア)
(俺はお前を一生愛さないと、決めているんだから—————)
*
「…貴方ってば、ちっとも顔色を変えないのよね。
何考えているか分からない不気味な女。
…まあ、だから入れ替わった後も、皆に不気味だと思われるから都合はいいけれど。」
身分の低い側室の子であるエリスは、幼い頃から姉のユースティティアに酷い虐めを受けていると聞いていた。
でも、今はどうだ。
エリスは自信満々に、勝ち誇ったように前髪をかき上げ、ユースティティアを見て嘲笑う。
逆にユースティティアは死んだような瞳をして、微動だにしない。
「…はあ、全くつまらない女。
それにザイン帝国の第2皇子もそう。
アッシュブラウンの髪に琥珀色の瞳なんて、身分の低い側室の生んだ子らしい、雑種のような外見だわ。
青臭いだけのガキで、魅力なんて一つもない。
イケメンな兄皇子と比べて雲泥の差ね。
何であんなのが私の婚約者なの?
どう考えても虐げられている者同士、ユースティティアお姉さまとお似合いよね。ふふっ。」
(エリス………君は)
『キリクス様。
貴方のその高貴なアッシュブラウンと、琥珀色の瞳がとても素敵ですね。』
未来で、キリクスと二度目の婚約を結び直した時、エリスはそう言っていたのに。
(あれも嘘だったんだな)
心に穴が空いたような虚しさがキリクスを襲う。
同時に、あれ程まで恋焦がれていたエリスに対する熱い感情が、水に流されたように削げ落ちていった。
——悪女と呼ばれたユースティティア。
オプスキュリテの現皇后の娘で第1皇女。
最大の特徴であるコバルトブルーの長い髪が誰の目をも惹きつける。
薄茶色(ブラウンアイ)の大きな瞳と、透き通るような白い肌の彼女。
生まれた時は絶世の美女と言われていた。
しかしその性格は、幼少の頃から傲慢で我儘。
それに国民の血税を散財して贅沢し放題。
人のものを欲しがり、それを横取りする。
悪いことを注意した侍女がいれば、鞭打ち刑など残虐な罰を与える。
ひどければ処刑を命令するなどして、ずいぶん人を殺めたらしい。
自分を無視する存在がいれば権力を盾に無理矢理従わせたという。
その中でも異母妹のエリスに対する仕打ちが酷く、皇帝の目の届かないところでエリスに暴力をふるい、残虐行為をしたと聞いた。
逆に妹のエリスは身分の低い側室の子であることから、毎日のようにユースティティアに虐げられた。
拷問部屋に閉じ込められたり、食事を与えてもらえなかったり、鞭で足や背中を叩かれたり。
常に体のどこかに傷を負っていたという。
だがエリスは人を憎まず、誰よりも純粋で優しい性格に育ったと聞いた。
——キリクスが見たのは、その全てを覆すものだ。
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