復讐のための回帰

 …なぜ、ユースティティア自身がエリスに向かって『ユースティティアお姉様』などと呼ぶのか。

 キリクスは自身の目と耳を思わず疑ってしまう。



 暖色を帯びた魔石の光りが、2人を足の先まで鮮明に照らしている。



 「そろそろ…入れ替わりましょうか?

 お姉さま。

 いつまでも貴方のこの、醜いコバルトブルーの髪をしているのが不愉快なのよね。」



 そう言ってユースティティアは、まるで虫でも見ているかのような冷酷な目でエリスを見下ろした。



 その瞬間、ユースティティアの髪色が、深く不気味な黒色をした魔力に包まれて変化し始めた。



 それと同時に、エリスの髪も変化した。



 Frozen blue rose《凍てつく青薔薇》の悪女と呼ばれて、キリクスの最愛の兄を殺したユースティティアの髪は金色へ。



 その瞳は濃い灰色へ。



 声を押し殺して泣いていたエリスの髪は、悪女と言われる所以になった深く濃い、コバルトブルーの青へ。



 瞳は。悪女と呼ばれたあのブラウンアイへ。




 (一体、どういうことなんだ?)



 目の前で、エリスがFrozen blue rose《凍てつく青薔薇》の悪女、ユースティティアに姿を変え、ユースティティアが、姉に虐められていると言われるエリスに姿を変えた。



 「皇后の娘で第1皇女とは言え、母親もその娘も、皇帝の寵愛を失えばゴミのようなものよね。

 可哀想なお姉さまに成りすまして悪事を働けば、側室の娘である私の評判が上がるのよ。

 楽しくて仕方ないわ。ねえ、ユースティティアお姉さま?」




 (………そんな)




 (成りすまし?)



 …たしかに魔力で、髪と瞳の色を入れ替えられると聞いたことはある。高度な魔術でなら。



 (なら、エリスがユースティティアに?)



 (ユースティティアがエリスとして?)



 (一体いつから……?)




 (さっきまで互いに傷を癒して再会を約束したのが…

 本当のユースティティアだっていうのか?)



 (なぜ………)



 その恐ろしい意味はさっきエリス自身が語っていた。キリクスはその事実と冷静に向き合う。



 本物のエリスがユースティティアのふりをして悪事を働き、自身の評判を上げる。

 エリスは姉に虐られる、健気で可哀想な子だと周りに思われる。

 反対にユースティティアは人々に悪女として認識され、ますます嫌われていく。



 それが本当のエリスの目的だとすると、ユースティティアはこれまでずっと、第2皇女である妹のエリスに罪をなすりつけられていたということになる。



 (それならユースティティアは本当は悪女ではなかったということか———………?)


    




        


      


     ◆登場人物と名前の由来◆



【キリクス】…ザイン国第2皇子。

由来・ギリシア神話に登場する。攫われた兄弟を捜索した。



【ユースティティア】…悪女と言われたオプスキュリテ第1皇女。

由来・ローマ神話に登場する女神。ラテン語では「正義」。



【エリス】…オプスキュリテ第2皇女。

由来・ギリシア神話に登場する、不和と争いの女神。



【アドニス】…ザイン国皇太子。

由来・ギリシア神話で女神に愛された美少年。

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