復讐のための回帰
本来なら皇家の正統な第1皇女であるユースティティアは、アドニスの婚約者だった。
しかし彼女は幼い頃から冷酷無比で残虐な面が目立ち、その悪どさから『Frozen blue rose《凍てつく青薔薇》の悪女』と呼ばれ、アドニスの婚約者として相応しくないとして、その立場を外れてしまったのである。
その代わりにアドニスの婚約者には第2皇女であるエリスが選ばれた。
悪女のユースティティアとは違い、妹のエリスはザイン帝国内でも有名だった。
優しくて、心が綺麗で、慈愛に溢れている。
まるで聖女のような皇女。
そんな彼女こそ、アドニスの婚約者に相応しいとされた。
その事で帝国内で反発があり、オプスキュリテ側も無用な争いを避けるため、それを呑む結果となる。
こうして一度取り交わされた婚約は破棄され、新しい婚約が結び直された。
それからアドニス18歳と、エリス16歳の結婚が執り行われる。
ザイン帝国を訪れたエリスは、会えない間に本当に美しく成長していた。
あの時と同じ金色の髪と灰色の瞳。
気品に溢れ、その笑顔に誰もが焦がれずにはいられない。
アドニスと仲睦まじく並ぶその姿は、まさに未来のザイン皇帝と皇妃。
(この婚約のやり直しは正しい)
(優しい最愛の兄にはやはり、心が美しく優しいエリスがお似合いだ)
キリクスはエリスへの密かな恋心を封印し、2人のことを祝福しようと心に決めた。
————————————————
しかし悪女として忌み嫌われているユースティティアは、そんな2人を許さなかった。
オプスキュリテの第1皇女、ユースティティア。
彼女がFrozen blue rose《凍てつく青薔薇》の悪女と呼ばれる所以。
濃くて深いコバルトブルーの髪に、ブラウンの瞳が冷たくて不気味だからだ。
そのユースティティアが、長いことエリスを虐め、残虐非道な行いをしていたと噂に聞いて以来、キリクスは彼女を心底嫌っていた。
しかしキリクスの意思に関係なく、アドニスとエリスの後に続いて、17歳になったキリクスと18歳のユースティティアの結婚も執り行われた。
完全な政略結婚。
国のことを考えれば拒絶することは叶わないけれど、結婚してもキリクスは彼女に近づこうとはしなかった。
形だけの夫婦として過ごし、決してユースティティアを愛さないと心に決めていた。
だが数年後———アドニスの皇位継承権をめぐりザイン帝国が揺れた。
現皇后が不貞を働き、アドニスが生まれたという密告があった為である。
そのせいでアドニスは皇位継承権を剥奪され、ただの一皇子に降格してしまう。
代わりに、他に息子がいなかった皇帝は、キリクスに皇位継承権一位の皇太子の座を与えた。
———そうした矢先に、事件は起きた。
アドニスが毒殺されたのだ。
犯人は嫉妬に狂ったユースティティアだった。
調べによれば、婚約者をエリスに奪われたその日からずっと計画していたという。
ユースティティアの歪んだ欲のために、最愛の兄を奪われた。
キリクスはそんなユースティティアを憎み、激しく非難した。
アドニスの死後、キリクス自身もユースティティアとの離婚が決まった。
ユースティティアは罪人の塔に閉じ込められた。
悪女を確実に死刑にするため、キリクスはアドニス毒殺事件の証拠集めを始めた。
しかし、こんな事件があったにも関わらず、どうしてもザイン帝国を手に入れたいオプスキュリテ側の提案で、エリスが再びキリクスの婚約者として選ばれるという結果に。
しかしその直後、ユースティティアは幽閉されていた塔から抜け出した。
そしてあろうことかエリスに毒を盛り、その命までも奪おうとした。
愛しいエリスの命が消えかけていた。
キリクスはどうしても許せなかった。
最愛の兄を殺し、愛するエリスの命までも奪おうとしたユースティティアが。
これまで何度も涙を飲んだ。だからこそキリクスは決意した。
兄、アドニスが殺される前に回帰することを。
アドニスの命を奪われる前に。
エリスの命を奪われる前に。
(あの悪女を俺が殺してやる……!!)
10年前からキリクスは、やがて妻となるであろうエリスのためにと努力をし、高位魔術を扱えるようになっていた。
復讐を誓ったキリクスは、禁忌とされている魔術を使い、過去への回帰を試みることにした。
下手すれば自身の命も失われるかもしれない。
けれどユースティティアに対する憎しみがキリクスを突き動かした。
そして————————————……………
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