世界の終わりに語り合う二人

◆◆◆




 外は既に血の海になっていた。

 



 新しく覚醒した〈魔王〉は、タカが外れた様に人々を惨殺していった。

 歩くだけで彼は〈常枯渇〉を身に纏っている為、そこに存在する生命を瞬く間に枯らした。

 それは小さな虫や鼠、草木だけではない。

 側を通り掛かった人間も同じだった。

 水分が抜けていく様に体が乾涸びていく。

 最後は枯れ枝の様に細くなり、息絶えた。

 



 「死ね!〈魔王〉!」と言いながら銃を向ける王宮の兵達に向かって拳を捻り上げれば、熟れた無花果の様に彼らは破裂した。

 血の海に死体の山を連ねていった。

 そこに存在するだけで禍々しく、あっさりと命を枯らす。

 一瞬にして国を滅ぼしてしまうほどの天災。

 それが〈魔王〉。

 



 その〈魔王〉が人々を惨殺しながら突き進んで行く道を、エレナとライアンはゆっくりと辿る。

 人々の苦しみや悲鳴など目に入らず悠々と。




 「…僕は君に酷いことをしたね。」




 「どうしてそう思うの?」




 「君に恐ろしい呪いを掛けてしまっただろう。〈不死〉という呪い。

 そのせいで随分君が苦しんだのではないかと後悔していたんだ。」




 「…正直に言うわね、ライアン。

 最初はね。確かにあなたを恨んだり憎んだりしたわ。

 あなたはあっさり居なくなってしまった癖に、なぜ、私をこんな酷い世界に一人残して、死なせてくれないのかって。

 あなたの後を追って静かに眠りたいと何度も願った。けれど、気付いたの。」

 



 「…気付いた?」




 「あなたが私を愛していたから〈不死〉にして守ろうとしてくれたんだって事に。

 そう気付いたら後はもう、ずっと自分のこの身体が愛おしいだけだった。」




 そう言ってエレナは、繋いだ反対側の手で自分の身体を抱き締める。




 「あなたが生きていると信じて彷徨った最初の数百年、あなたを蘇らせる事ができるかもしれないと知ってからの数百年。

 あなたをずっと探し続けながら沢山の美しい空や街や城や国や、春や、夏や、秋や、冬を見たわ。

 本当に美しかったの。」

 



 「だから恨んでないと?」




 「恨んでない。そして、今度はあなたと二人で見たいと思ってる。

 美しい世界を。美しい景色を。何気ないけれど一度も同じ空はない、そんな愛おしい空を。」




 「この国の事は?恨んでない?」




 確かにエレナは初め、この公国を、全ての人々を恨んでいた。

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