再会

 かつてエレナが愛した、この世で最も大切な〈彼〉は墨色の髪をしていた。

 瞳の色はルビーの様に淡い赤で、その瞳の奥にはいつも優しさが隠れていた。



 この少年の様に。



 「ライアン——————————」



 「エレナ。」


 

 そう。

 この彼こそがライアンだったのだ。




 ———瞬間言葉はなかった。




 互いに手を伸ばし、駆け寄る。

 その身体を潰れる程にきつく抱きしめ合った。

 二人はずっと求めていた、自分の半身を手に入れたような不思議な気分だった。

 そのまま床に崩れ落ちて、ライアンはエレナを庇うように後頭部を支え、黄金色をした彼女の瞳を見つめた。

 

 


 少年のライアンの身体はエレナよりも小さく頼りなかったが、力強さや情熱は、エレナ以上に溢れていた。


 


 互いの額を寄せながら二人は涙を浮かべた。

 床に落ちた涙が、どちらのものなのか分からない程に。


 


 「…ライアン…!…いつ?いつから私だと気付いていたの?」




 「…君にぶつかって見上げた瞬間に。

 ………君は?」



 「私も、あなたがぶつかって私を見上た時に気付いたわ。」



 走ってきたライアンが、飛び込んで来たあの時———————————


 


 正体に気づいたエレナは、腕の中にいるライアンを引き寄せて抱きしめた。

 姿形は違ったとしても彼は間違いなくライアンだった。

 魂がそう言っていたのだ。

 



 ずっと止まっていた心臓が、再び鼓動を始めたような感覚だった。

 千年も恋焦がれた人にやっと会えた。

 



 もう二度と離すものかと、ライアンの手を握り、エレナは夕暮れの空の下を駆け抜けた。




 ◇◇◇




 「…ライアン、あなた、無事に復活できたのね。また人間に…なれたのね。」




 「…そうだよ。

 君が魂の欠片を集めて〈生命の息吹〉を行使したからだと〈魔王〉は言っていたよ。

 まだ君より小さいのが癪だけど。」




 「良かっ…ライアン…また会えた…ようやく会えたんだね。

 長かった、本当に本当に長過ぎたよ…!」




 「僕も。エレナ。ずっと、ずっと会いたかった。

 首を切られて消えた後で、欠片になってもずっと君の記憶だけが残っていたんだ。

 君とまた会える事だけを、千年も待ち続けた。」




 斬首されて大陸中に散らばってしまったライアンの魂。

 それは個々が記憶を持ちながら、エレナにもう一度会いたいと叫んでいた。

 



 別れ際に彼女を死なせたくなくて〈不死〉にしてしまった。

 だから彼女が孤独で泣いているんじゃないかと、それが気掛かりだった。

 彼女を幸せにしたかったのに、最後に見た彼女は泣き叫んでいた。

 それが魂に刻まれたまま忘れられなかった。




 もしまた会う事ができたなら。

 その奇跡を願って待ち続けた。

 



 濡れ衣によって引き裂かれたあの日から、それぞれ千年もの夜を超えて。

 二人は尊く愛おしい人と、あまりに長い月日を経て、再会を果たした。

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