不死の呪い
だがエレナは首を切られても生きていた。
ライアンが最後に、エレナに〈不死の呪い〉を掛けたからだ。
◇◇◇
斬首されたエレナの身体は、沢山の公国民から悪女と罵られ、唾を吐かれ、石を投げられたあと、燃やされた。
首は王城の凱旋門に吊るされた。
残った骨は野に乱雑に投げ捨てられ、野生動物に荒らされ散らばった。
やがて時が経ち、骨さえ風化し土に還る。
それでも砂状から再集結して、エレナは復活した。
生まれたての山羊の様に立ち上がり、エレナは野を歩き出した。
「ラ…アン…ライ…アン…ライアン!!」
もう一度声帯を得て、その名を何度も呼んだ。
泣きながら、乾いた大地を彷徨った。
(ライアンが居なくなったなんて信じない)
(きっと、この広い世界のどこかに生きている)
エレナは、あの時黒い蝶になって消えたライアンを探して、歩き続けた。
目立たない地味な服装をして、人目を避けながら。ついには公国を脱出した。
ライアンを探して、休むことなく、次の大陸をただひたすら歩き続けた。
不死になったエレナは、16歳で斬首された時の姿のままで、病気やケガで死ぬ事もなかった。
誰もが死んで、戦争が起きて、新しい国が生まれて、またその国が滅んでも生き続けた。
始めは自分達を死に追いやったフィンレーや、かつての仲間、ルイン公国民への怒りを抱きながら生きた。
時には、自分をこんな体にして先にいなくなったライアンを憎んだ事もあった。
死にたいのに死ねない自分を呪って、何度も泣いた。
だが長い年月を生きるうちに、ライアンが自分を本当に愛してくれていたから〈不死〉になったのだと、ようやく気づくことができた。
何年。何十年。何百年。
やがてエレナは慈愛の女神〈エウメニデス〉の住む神殿に辿り着く。
ライアンの生死で何か分かる事は無いかと尋ねると、美しい女神〈エウメニデス〉は慈愛に満ちた目をして、答えた。
「残念だが彼は滅んだ。
次に〈魔王〉になる者が、やがてこの世界のどこかで覚醒するだろう。
けれど嘆くのは早い。
この世界には〈魔王〉ではなく〈ライアン〉の飛び散ってしまった魂の欠片がある。
それを掻き集めてお前の〈生命の息吹〉を使えば、蘇ることもできるだろう。」
「魂の欠片を掻き集めれば…ありがとうございます!〈エウメニデス様〉…!」
「しかし簡単な事ではないぞ。
この大陸中に散らばった彼の欠片は、砂粒のように小さく透明な球だ。
それを掻き集めるまでに何年…何百年…
きっとこれまで以上に途方もない時間を掛けることになるだろう。」
〈エウメニデス〉の言葉通り、ライアンの魂の欠片を集めるのにはかなりの時間を要した。
今日もあなたに会えなかった。
けれど明日こそは会えるんじゃないかと期待して歩き続けた。
夜明け前、月がなくなり辺りが暗い
夜空に煌めく天の川。
鮮やかな星の光、
太陽が沈んでも暗くならない不思議な白夜。
日の暮れる
歩き続けながらエレナは美しい世界を何度も見送った。
そうして千年もの夜が明ける。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます