ローアル・Side story・2
僕の本当の幸福は①
「ローアル。これまで私たち辛かったけど、今日一つ、いい事があるよ。」
皇宮に召し抱えられてから約1ヶ月余り。
その日はいつものように僕の部屋で一緒に朝食を食べていた。
ジャガイモの入った薄味のスープを飲んでいたエステレラが、急にフォークを片手にそう言った。
「何のこと…?」
よく分からず首を捻ると、エステレラは溢れるような笑みを浮かべた。
「今日、私たちがこれまで働いた、お給金が出るんだよ!」
「……そっか。忘れてた。陛下が約束してくださったんだもんな。」
色々と辛いことも多くて忘れていたが、城で働いている以上ちゃんと給金がもらえるのだ。
城に来て初めてもらうお金。
嬉しそうに笑うエステレラを見てると、僕も自然と嬉しくなった。
…今は束ねてあるけど、ずいぶん赤茶色の髪が伸びた。
色味が深く癖のある愛らしい髪…触ると肌触りが良くてとても気持ちがいい。
いつも真っ直ぐに僕を見る、燃えるように赤い瞳も健在だ。
背は伸びたけど、僕よりは断然小さく華奢で、もし抱き合えばすっぽりと僕の腕の中へ収まってしまうだろう。
これで皇女様のようなドレスを着ればまるで童話の中の完璧なお姫様だ。
君以上にきれいな人なんて見たことがない。
「君に…」
うっとり見惚れながらエステレラに話しかける。
その髪に綺麗な宝石を飾れば、この世の誰よりもエステレラは美しいだろう。
そうだ、給金を貰ったらエステレラに髪飾りを買おう。
二人で城外に出る許可を貰って。とにかくエステレラの喜ぶ顔が見たいな。
「?」
つい妄想を膨らませるとエステレラが不思議そうな顔をして覗き込んできたので、僕は恥ずかしくなってまた顔を背けてしまった。
「…君に似合う髪飾りを買いたいんだ…」
恥ずかしかったが、思っていたことを口に出すことができて概ね満足する。
「本当に?嬉しい…!ローアル!」
飛び上がるように喜んだ彼女はフォークを置いて僕に抱きついた。
その瞬間、この前子息たちにやられた傷にエステレラの腕が触れてしまいつい声が出た。
「ごめん、ローアル!」
それに気づいたエステレラが顔を真っ青にして離れようとするが、僕が彼女を強引に引き留めて抱きしめ返した。
「僕は大丈夫。…それにエステレラとこうしてると、落ち着くんだ。」
…今にも折れてしまいそうな華奢な身体。
そんなエステレラの体に回した手に、力を込めすぎないよう抱きしめる。
その体からはお菓子のように甘い匂いがフワッとする。
幼い頃からずっと一緒だったし、嬉しい時や悲しい時はハグするのが習慣だったけど…
今はこの抱擁が特別なものに感じられる。
ドキドキする。
君が愛おしい。言ってしまおうか。
君が好きだって。
大人になったら結婚しようって……
今なら伝えられるチャンスかもしれない…
そんなことを考えていたら部屋の扉が乱暴に開いて、フォンセ副団長が不機嫌そうな顔で叫んだ。
「ローアル、皇女様がお呼びだ!」
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