皇帝と養女⑥

 そうしてフォンセの異常なまでの忠誠心と崇拝心は、アウトリタに刃となって向かった。



 この皇帝弑逆計画には、エスピーナとフォンセ以外にも一枚噛んだ者たちがいた。



 エスピーナが皇帝となれば、彼女を傀儡として操れると踏んだ宰相のメルフラフを始め、国庫管理長のポルコなど、欲深き者たちの協力によって、それは決行された。



 —————————


 

 用意周到な計画により呼び出されたアウトリタはその日、臣下であり皇室騎士の副団長であるフォンセによって、暗殺用の剣で腹を貫かれた。



 「なぜだ…フォンセ…」



 「皇帝陛下、あなたが悪いのです。

 このトルメンタ帝国の未来のため……潔く逝って下さい。」



 アウトリタの衣服が赤く染まる。



 薄暗い目をしたフォンセをアウトリタは深く同情した瞳で見つめ、床に倒れ込んだ。



 魔力というものは無限ではない。



 いくら国一番の魔力保有者だったとしても、アウトリタはエステレラに加護魔法を継続してかけていた。

 そのため、自身にあまり魔力を回すことができないという弱点が存在した。

 それをエスピーナが把握していたからこそ、この計画は実行された。



 フォンセは躊躇うことなく、アウトリタからもう一度剣を抜き、今度こそ息の根を止めようと剣を振り上げる。



 しかしあと一歩というところで異変に気付いた女官により、とどめを刺すことが出来なかった。

 


 騒がれたことでフォンセは止むなく退却することになる。

 しかし、確かに手応えはあった。



 恐らく生きながらえるのは難しいだろう。



 そう確信して、フォンセは自分の行った大義に満足気な表情をするのだった———————




 




       ◆登場人物◆



 【キュルマ】…エステレラ付きの女官。

 フィンランド語:意味:冷たい。



 【ポルコ】…国庫管理長。

 ポルトガル語・意味:ブタ



 【メルフラフ】…トルメンタ帝国宰相。

 ヘブライ語:意味:汚い

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