前世編〈エステレラと皇帝〉

近づく悪意①


 ◇◇◇



 ———ゆらゆらと、白い光が揺れている。



 太陽の光…?

 それとも月の光だろうか…?



 眩しいけど片目ではどうにも確認しづらい。

 私の左目の眼球は、永遠に失われてしまったのだから。



 「…エステレラ?」



 誰かが私を呼んでいる。

 


 私の大好きな人の、優しいあの人の、声だ。

 暖かい手の温もりが、わずかに動いた右手を掴んでいた。



 ここは…そうか。

 私はあの儀式の後で気を失い、今まで眠っていたのか。

 無理はない。

 あれほど大きな儀式だったんだもの…

 むしろ生きているのが不思議なくらいだわ。



 残された方の目に、私の手をぎゅっと掴み、まるで祈っているようにも見えるローアルの姿が飛び込んできた。



 陽の光に照らされて眩しく輝く、サラサラとした質感の銀色の髪。

 宝石のような薄紫色の瞳。

 垂れ下がった眉に整った顔だち。

 骨格や筋肉ががっしりとし、すっかり青年になった私の大好きな人。



 私のローアル。



 「ロ…」

 「君のおかげだよ。」



 「君のおかげで、なれたんだ。皇室騎士の中でも名誉ある専属騎士に。

 本当にありがとう、エステレラ。」



 涙を浮かべ、嬉しそうに笑うローアルを見て、私は言葉を詰まらせた。



 良かった。



 今度は目を犠牲にした甲斐があった。



 片目でしか見えないけど、こんな風に笑うローアルを見たのは、久しぶりだ。



 最近彼はいちだんと、エスピーナと過ごす時間が増えていたから。

 私が倒れたと聞いて、今日はそばにいてくれたんでしょう?



 優しいローアル。大好き。




 なんて、うそ。



 ———本当は違うんでしょ?



 言って。



 ローアル、言ってよ。



 『君のおかげで、大好きなエスピーナの専属騎士になれたんだ。』って。



 私の目を見て言いなさいよ。知っているのよ。

 ローアル。



 騎士の中でも名誉ある専属騎士になれたのが嬉しいんじゃない。

 彼女の専属騎士になれたのが嬉しいんでしょ?



 あの女が好きだから………!!

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