魔術師ディーの罠④
《皇室騎士団・養成、訓練所》。
教育の一環で、ローアルは騎士団から剣を習う授業を受けていた。
皇室の騎士になるのが夢だったローアルにとって、そこはまさに憧れた世界。
そもそも皇室騎士団に入るためには過酷な訓練を受け、実技試験を突破しなければならないという決まりがある。
もちろんローアルは正式に騎士団入りを目指すつもりだった。
しかしそこには皇室騎士団の副団長を務めるフォンセがおり、皇女の企てに忠実な彼は、ローアルに剣の練習をさせないようにした。
さらには養成所に通っている貴族の子息たちを扇動して、ローアルを無視したり、貶めるような陰口をわざと叩かせた。
「見ろよ、あいつ。今日も剣を持たせてもらえてないぜ。」
「ははは!貧民で身分もないくせに、でしゃばるからだ。
騎士団に入れるのは貴族だけだって、身をもって知るがいいさ。」
「あんな薄汚い貧民、食糧庫でせっせと豚や鳥の肉でも管理しとけっての。汚い家畜同士、お似合いだぜ。アハハハ!」
元々、アウトリタ皇帝が貧民を迫害した事実は貴族達にも強く根付いており、その子息達もまた、ローアルのような少年を見下していた。
同じ人間を人間として扱わないのは、何も皇女に限ったことではない。
そのことはローアルも分かっていたはずだった。
しかしスラム街や市場がある街、商業ギルドで出会う貴族は比較的良心的な人々ばかりだった。
だからこんな風にあからさまな悪意を向けられたのは初めてだったので、当然ローアルは戸惑った。
またフォンセや他の騎士団員達、子息達に限らず、国庫(食糧)の管理者であるポルコやその従者達からも、冷遇を受けていた。
しかもローアルは優しく控えめな性格と、その美しい見た目が災いしていた。
〈気取っている〉
〈ろくに目も合わさないのが、貴族をバカにしている証拠〉
〈あの銀色の髪が気に食わない〉
事あるごとに嫌味を言われたり、突き飛ばされて、服を汚すなどの悪戯をされたりした。
それでもローアルは文句も言わずじっと耐えていた。
———しかし、ある時、同じ訓練生たちに呼び出され———。
「おい、ブタ。特別に訓練してやるぜ。」
同じ養成所に通う貴族の子息達に、ローアルは地面に投げ捨てられた木の棒を拾うようにと命令される。
子息達は数人で、ローアルを逃げられないよう取り囲んでいた。
「………」
ぐっと唇を噛み、ローアルは静かにその棒切れを手に取った。
「行くぞ!ブタに俺たち貴族様が、特別に教育してやるからな!」
「…!」
訓練用の剣は、両側が逆刃で斬れはしない。
しかし、打撲傷などは負わせられる。
その剣を持って襲いかかってきた子息の一人を、ローアルは身軽に避けた。
「なに?」
「あいつ、避けやがったぜ。」
「うそだろ?まぐれだろ。」
「このやろう!」
顔一面にそばかすがある子息が、再びローアルに襲いかかった。
しかし、ローアルはそれを何なく避け続けた。
それもそのはずである。
なんせローアルは、元騎士団の老齢の師匠から幼くして何年も訓練を受け続けたのだから。
剣術には護身のための受け身も含まれているため、こんな子供騙しの剣を避けるのは、ローアルには簡単なことだった。
しかし何度もやり損ない、恥をかいた子息は怒り狂った。
「そいつの両手足を抑えろ!」
「なっ!離せ!」
ローアルは必死に逃げようとしたが、数人がかりで地面に押さえつけられた。
身動きができないローアルに馬乗りになった子息達は、笑いながら剣や拳でローアルの体を何度も殴打した。
「貧民が!思い知ったか!」
「ギャハハ!」
彼らには罪悪感など欠片もない。
子息達はさんざん暴行して満足すると、ローアルを残して高笑いしながら、去って行った。
傷だらけになったローアルは、何とか動く手でグッと地面の草を握りつぶした。
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