傲慢な皇女③

 スラム街の住民は恐怖しながら、跪き、その恐ろしい光景をただ傍観していた。



 乾燥した風が舞い、夕暮れの空が街中を照らしている。

 銀色に光る騎士の鋭い剣が、赤い景色を鮮明に映し出していた。



 「っ、エステレラ……!ごめん、君を巻き込んでしまった!」



 背後にいたローアルが、私の手首を掴んだ。

 指先がひどく冷たい。ローアルも怖いんだ。

 振り返りった私は、気丈なふりして微笑んだ。




 「何言ってるの。

 何ひとつ、ローアルのせいじゃない。

 それにあなた一人を危険な目には合わせない。

 どんな時も、例えこれが最後でも、私達はずっと一緒だよ。」



 ローアルの顔はひどく青ざめ、今にも泣きそうだった。



 それを間近で見物していた皇女は、不機嫌そうな顔をして騎士に手で合図した。



 「やめなさい、フォンセ。」



 「皇女様!しかし…!」



 皇女が鋭い眼光を向けたことで騎士はようやく剣を下ろし、鞘に収める。

 しかし全く気が済まない!という風に私達を睨みつける。



 「ねえ、それならお前は何が欲しいの?

 欲しいものを言ってご覧なさい。」



 言葉とは裏腹に、皇女は私やローアルに冷ややかな目線を浴びせた。



 「僕は…彼女と一緒でなければどこにも行きません。」



 ローアルは、声を震わせながらも私を自分の背後に隠した。

 それを見た皇女がまた私を睨みつける。



 「それは何?あなたの恋人かしら?」



 「恋…いえ、そうではありません。

 しかし彼女は、僕の大切な人であることに違いありません。」



 「ローアル……っ!」



 「この貧民が!よくもぬけぬけと皇女様に向かって不遜な口を…!」



 また騎士が怒鳴り始めたが、それを静止して皇女が言った。



 「そう。なら仕方ないわね。

 その下賤な者も一緒に引き取ることにしましょう。それなら問題ないでしょう?」



 「皇女様!?こんな小汚い貧民を、まさか二人も引き取ろうと言うのですか!?」



 「黙りなさい、フォンセ。いくらあなたでも、わたくしの決めたことに口出しすれば、その首を切り落とすわよ。」



 「…っ申し訳ありません。皇女様っ」



 真正面から皇女に睨まれた騎士は、ようやく静かになった。



 「誰か。この者達を連れてきてちょうだい。

  あ、けれどまだ馬車には近づけないでね。

 汚ないから、城に帰ったらきれいに洗わなければ。」



 「いや、やめて!離して!」



 「やめろ……エステレラに触るな!」



 数人の騎士達が、強引に私達の腕を掴む。

 抵抗したが、私とローアルは荒々しく腕を引かれ、無理やり別々の馬に乗せられた。



 道端には、夕食のためにと買ってきた果物や穀物が無造作に転がっていた。


 

 大変なことになってしまった。



 私達には、それを断る選択肢さえないの?



 それにあの皇女様は、ローアルをあきらめる気はないみたい。

 でも、ローアルをまるで家畜のように扱う皇女様を私はとても好きにはなれない。



 飼いたいなんて………

 


 ローアルは物じゃないわ………!!



 ——————



 「フォンセ。」



 「はい、皇女様!」



 「機会を見てあの少女を殺すのよ。

 むごたらしく残虐に、ね?

 私に歯向かった罰を与えなければ。ね?

 フォンセ。」



 「はい!皇女様!ご命令はこのフォンセが必ず!」



 この帝国の第一皇女。

 皇帝の次に高貴で美しいエスピーナの顔に、ひどく不気味な笑みが浮かんだ———。





 



       ♦︎主な登場人物♦︎



 【エステレラ】…主人公。

 ポルトガル語:意味:星


 【ローアル】…幼なじみ。

 ブルトン語:意味:月


 【エスピーナ】…トルメンタ帝国第一皇女。

 スペイン語:意味:棘


 【フォンセ】… エスピーナの専属騎士。

 フランス語:意味:闇

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