傲慢な皇女②

 「フォンセ。」


 手振りで皇女が指示すると、騎士は頷き、手慣れた様子で布袋をひっくり返した。



 「!!?」


 舗装されてない道の上に、見たこともない量の硬貨がカラカラと音を立てて落ちた。

 私達が呆気に取られていると、皇女はローアルに恍惚とした目を向けて言った。



 「1,800ディラよ。

 これでお前の一生は、わたくしが買ったわ。」



 「全く…お前というやつは。」



 馬車の中から呆れたというように、顔の見えない皇帝の声がした。

 


 「さあ。早くここまで来て。」

 


 皇女は、ローアルをまるで犬を呼ぶように手招きした。




 ………これが皇族?

 本で見た通りだ。

 人間をまるで家畜や道具のように扱うという。



 いやだ。

 こんな風にローアルを物みたいに扱うなんて。



 こんな人にローアルを……



 絶対にだめよ。



 「さあ、それを拾って立て!お前の身はすでに皇女様のものだ!」



 道の上に散らばった大量の硬貨を見ながら、騎士は再び怒鳴り声を上げた。

 当然、ローアルの顔は怯えている。

 それでも顔を上げ、強い口調で言い返した。


 

 「…僕は行きません。」



 「貴様!この愚かな貧民が!皇女様の命令が聞けぬと言うのか!」



 はっきりとローアルは皇女の命令を拒絶した。

 それに腹を立てた騎士は、腰に携えていた剣を鞘から抜いた。

 最悪な場面が頭をよぎる。



 だめ!!!ローアルを殺さないで……!!!




 「やめて!!騎士様!!どうかローアルを殺さないで下さい………!!」



 怖い。

 だけど私はローアルをかばうように、その前に立ち塞がった。

 目の前には騎士の構えた鋭い剣が光っている。


 怖いけど、ローアルは私の大切な人だ。

 絶対に死なせたくない!

 


 「エステレラ!?」



 背後から絞り出すような声で、ローアルが私の名前を呼んだ。




 「………は?お前は誰よ?」




 さっきまでとはまるで違う、皇女の冷え切った瞳が私を見下ろした。



 間に入った私を、騎士もまたギロっと睨みつける。

 手に持った鋭い剣を今にも容赦なく振り下ろしそうだった。



 私達はきっとここで死ぬ。そう思った。

 ローアルは皇族の命令を拒否した。

 そして私の今した行いは、不敬罪で死刑にも値する。



 でも構わない。

 どうせあの日に死ぬ運命だった。

 それを救ってくれたローアルのためなら、死ねる。



 ここまでが私達の生だったというのなら、死ぬ時もローアルと共にありたい。

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