第55話
翌日から、ベアトリクスは残る薬草を集めるべく奔走した。
半年も過ぎれば、彼女も気が付いていた。まだ見つからない薬草は、この森以外を探す必要があると。
クロエから許可をもらい、彼女の所有する古書を読み解き、生育場所に当たりを付ける。
「ユグドラシルは世界の地平線に、アスフォデルスは冥界の深淵に。モーリュは光の国にあるみたいね」
少々遠いけれど、集めないことにはグラディウスへ向かうことができない。ミカエルからは定期的に手紙が届いており、幸いにしてベアトリクスの家族に健康被害はないものの、かの国の状況は悪くなる一方であることが伺えた。
「ゆっくりしている時間はないわ。ちゃちゃっと行ってちゃちゃっと帰って来ましょう」
行動力のあるベアトリクスは早速荷物を準備し、クロエとルシファーに書置きを残して出発する。
深夜にその手紙を目にしたルシファーは、森中に響き渡る驚き声を上げてクロエに叱られた。
ぶたれた頭をさすりながらルシファーはぼやく。
「こんなの大金を積まれたS級冒険者が行く場所だぞ。ったく、師匠もベアトリクスも無茶をする……」
どれもこの世界の極限地帯や容易には入れない場所である。つまり、貴族令嬢には一生縁のないはずのところだ。
ルシファーはため息をつきながら、手紙の最後に書かれた「なるべく早く帰ります。ルシファー様、お体にお気をつけて」という言葉に目を落とす。美しく綺麗に整った文字は、まるで彼女そのものを表しているようだった。
「……お前もな。必ず生きて帰ってこいよ」
相手に届くことのない呟きは、闇夜に消えていく。
春を思わせるピンク色の封筒を大事にローブの裏にしまい込み、ルシファーは鍛錬に向かって身をひるがえすのだった。
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