第48話
数日後。荷物をまとめた二人はソルシエールへと発った。
ルシファーの転移魔法が使えるのはソルシエールの国境門まで。魔法が張り巡らされたこの国内で、他国の者が使える魔法は制限されているからだ。
無事に入国したあとは、地道に陸路でルシファーの師匠のもとへ向かう。
ソルシエールは小さな国だ。緑の木々に囲まれた盆地に首都があるものの、魔女は群れることを好まない。首都は最低限の都市機能を備えるのみで、魔女たちは家族単位で森や谷、洞窟などに住むのだという。
「すごい……! 箒で飛び回っていますわよ!!」
魔女たちの交通手段は箒である。
流れ星のように青い空をゆく魔女たちを、ベアトリクスは羨望のまなざしで見上げる。
「グラディウスにも魔法はあるが、ここは本場だからな。ああ、魔女を見かけても話しかけてはいけないぞ。彼女達は誇りが高いから、他国の者に気安くされることを望んでいない」
「そうなのですね。気を付けます! ……けれど、ルシファー様のお師匠様はわたくしを受け入れて下さるんですよね? ご無理を強いてしまったのではないかと心配です」
「それは問題ない。俺の師匠は魔女には珍しく、他者との交流が好きなんだ」
さく、と草を踏みしめながらルシファーが返事をする。
魔女たちは箒で移動するため、陸路はあまり整備されていない。それでも最低限の街道と宿屋はあるため、二人はいくつかの集落を経由しつつ、ひたすら歩き続けた。
そして、入国後三日目に師匠が住むという南の森へと到着した。
「ソルシエールの森にも、魔物の類がいるのでしょうか……?」
令嬢らしく眉をよせるも、両手の関節をパキポキ鳴らすベアトリクス。屈伸をしたり腕を伸ばしたりと、どう見ても戦う気満々である。
ルシファーは呆れつつも、そんな彼女を頼もしく、そして愛おしく思う。
「大丈夫だ。この森にも魔物はいるが、すべて師匠の使い魔だから俺たちを襲うことはない。それより問題は師匠の家だな。南の森にいるとはいえ、気まぐれだから森のどこにいるのかは分からないんだ」
魔物は襲ってこないと聞いて、ほっと胸をなでおろすベアトリクス。しかし、お師匠様の所在が分からないというところに首をかしげる。
「お師匠様は、お家に住んでいるのではないのですか?」
「その家の位置がころころ変わる。大魔法使いってのは、強大な魔力を持った奇人変人だからな。気まぐれなんだ。……いてててっ! やべっ、聞かれてるのか!」
ルシファーの言葉の途中で、舞い降りてきた大きな黒い烏が彼の頭を小突き回す。
『カアッ!! カアアアーーーッッ!!』
「ルシファー様っ! 大丈夫ですか!? 鳥さんだめよ、あっちへお行きなさい!」
ベアトリクスは必死に烏を引きはがそうとするが、烏はルシファーの肩にがっしりと足を食い込ませており、威嚇を止めない。
抗議するように鳴き喚く烏は、一通り彼をつつきまわした後、大空へと去っていった。
「いてて……。ったく、本当に暴力的な師匠だぜ。見ているなら案内してくれよ」
「今の烏はお師匠様と関係があるのですか?」
治癒魔法で顔や頭にできた小傷を治すルシファーに尋ねる。
彼はしかめっ面をしながら答える。
「使い魔の烏だ。名をガロンという。油断していたが、この森には師匠の使い魔がうじゃうじゃいる。今後、師匠の陰口を言う時は気を付けろよ」
「まあ! わたくしはそんなこと致しませんわよ。お邪魔させていただく身分ですので、置いていただけるだけでありがたいですわ」
「ははっ。だよな。ベアトリクス嬢が誰かのことを悪く言うとは思っていない。さあ、先を急ごう。夜までには見つけたい」
「わかりました!」
二人は再び歩き始める。
そして夕暮れ時、陽が沈むのとほとんど同時に、魔女の館を見つけたのであった。
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