第20話

広場から数分離れたところにあるカフェにて。

 よく冷えた果実水を二つ購入したベアトリクスは、元来た道を引き返す。

 そんな彼女の前に、二人の男が立ちはだかった。


 肉ダルマのような小柄な男と、長身でガタイのいい男だ。

 にやにやと締まりのない笑みを浮かべており、よれた服装と無精ひげがだらしない。

 肉ダルマはポケットに手を突っ込みながら、不躾に彼女の側にやってきた。


「よお、姉ちゃん。どこ行くの?」

「……バザーの会場に戻るところですわ。何か御用でしょうか」


 顔をそむけるベアトリクス。

 彼らの様子から、まともな用があるとは思えなかったからだ。


「御用っていうかねえ……。俺たち、暇なんだよね。一緒に遊ばない?」

「見事な金髪じゃねえか。ちょっと触らせてよ」

「あ、ちょっと! おやめください!」


 あっという間に距離を詰められて、髪に触れられる。

 振り払おうにも、両手は果実水のコップを持っているため使えない。きっと睨みつけるも、男たちは余計に面白そうな顔をした。


「おーおー、気の強い嬢ちゃんは好きだぜ。泣かせたくなる」

「ほら、行こうぜ。なに、すぐ楽しくなるさ」


 下品な笑いと、熱のこもった視線に背筋がぞっとする。

 ベアトリクスは考える。男一人ぐらいであれば股間を蹴り上げて逃げられるが、相手は二人。そのうえ両手が塞がっている状況では、どう行動するのが正解なのか?


 恐らく正解は、「大声を出して周囲に助けを求める」だっただろう。しかし一瞬悩んだ隙を突かれて口を塞がれる。


「んんっ!!?」


 右手から果実水のコップが滑り落ち、地面に吸い込まれていく。

 彼女はあっという間に路地裏に連れ込まれてしまった。


 ◇


「――ベアトリクス様、遅いですね」


 飲み物を買いに行ってから三十分は経っている。

 一番近いカフェであれば、女性の足でも片道五分かからない。どこか寄り道でもしているのだろうか。朝のゴミ拾いの時住民たちから気さくに話しかけられていたし、付き合いは広そうだ。


 ――売れ残りの積み込みも終わったし、夜も近い広場には人もまばら。

 荷車に背を預けてしばらく考えるミカエルだったが、やがて顔を上げる。


「見に行ってみましょうか。いくらなんでも遅すぎる」


 通りがかった冒険者に金貨を掴ませ、荷車の見張りを頼む。

 そしてベアトリクスが消えていった通りの方へと駆けだした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る