悪徳探偵は狂わない
岡 あこ
第1話 プロローグ
少し古びたマンションの一室,散らかった部屋の中で欠伸をしながら20代程度に見える美青年が携帯電話を手に取った.彼の事を詐欺師と呼ぶものも,名探偵と呼びものも,命の恩人と呼ぶものも,悪魔と呼ぶものも様々いるが,ここでは悪徳探偵とでも呼ぶとしよう.
「もしもし,なんか仕事ない?」
無気力で人を食ったような他人の神経を少し逆なでするような口調で電話の相手に悪徳探偵は笑いかけた.
電話越しから「何か用事かよ.俺は忙しんだよ.」そんな少し疲れているが,威勢の良い声が聞こえていた.電話の後ろからは人が多くいるのか様々な雑音が響いていた.
「忙しいなら電話に出るなよ.それで,何か仕事ない?流石に暇でさ」
対照的に悪徳探偵の周りは静かであった.
「黙れ,俺は今,殺人事件の捜査で……」
「……はい,情報漏洩」
悪徳探偵は大笑いしながら電話越しで軽口を叩いた.二人の関係は腐れ縁,親友,共犯者,ゴーストライター,ある意味でそれのどの表現も適切であった.
「……うざいな,いや,まあ別に良いか.どうせテレビでも報道してるし,捜査内容は言わないぞ.」
悪徳探偵は,数秒黙り手を叩いた.
「ああ,あの行方不明の金持ちが殺されたってやつか.」
そのニュースは連日報道されているものあった.テレビにも出ている有名な社長が行方不明になった.初めはどちらかと言うとワイドニュース的なゴシップ的な話題であった.遊び人だったから,修羅場から逃げてるとかそんな嘘だったが,死体で発見されたらしく.状況は一変していた.
「分かるか,大騒ぎで大忙しなんだよ.」
「手伝ってやろうか?」
「あんまり,警察を舐めるなよ.それとお前,高いんだよ,今月は金欠なんだよ.」
「……しかし,お金持ちが行方不明になって,殺されると随分忙しくなるんだな」
悪徳探偵は,嫌味たらしく笑った.
「……はぁ」
携帯の先からため息が漏れていた.
「嫌な世の中だなって」
「嫌味を言うだけなら電話を切るぞ.はぁ,今回はお前の手助けは必要ないから,また今度飲もう.」
その時,インターホンが鳴った.悪徳探偵はメッセージアプリを開くと仕事がやってきたことを認識して
「……ああ,人が来た,依頼が来たから電話切る,サボってないで働けよ.」
そう自分勝手に電話を急に切った.「お前……」最後にそう言いかけた言葉が悪徳探偵の耳に届くと彼は小さく笑った.それから,ノビをして,部屋のドアを開けた.
「良いカモを連れてきたのだろう.」
ドアを開けて,決め台詞を言ってみたが,悪徳探偵はドアの外の人物を見てため息をついた.
外には謎に探偵のコスプレをした茶髪のショートカットの可愛らしい大学生が一人で笑っていた.
「何でガッカリしてるんですか?助手の私が仕事を持ってきたんですよ.」
「依頼人は?」
「それが,私も依頼人なので,連れてこなくてもいいかなって,忙しそうでしたし.」
「なんで,馬鹿じゃない」という言葉を言っても無駄だと思い,飲み込んだ悪徳探偵は,諦めて話を聞くことにした.
「……はぁ,それでざっくり言うとどんな依頼で」
「行方不明な人を探してほしいんです.」
「……はぁ,金は取れるんだよな.」
「そこは,まあ,はい.多分,大丈夫です」
助手の少女は,少しオドオドしながら誤魔化すように笑った.
悪徳探偵は,自分が友人に言った皮肉を思い出して,厄介そうで金にもならなさそうだったが.依頼を受けることにした.
「……じゃあ,まあとりあえず事情を聴こうか.」
悪徳探偵は笑った.
悪徳探偵は狂わない 岡 あこ @dennki
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