第94話
いよいよお披露目式まで1か月を切った。
今日は、当日の警備の要となる騎士団とのミーティングがある。私はこの日を指おり楽しみにしていた。
「セーナ様が気にしていらした河童団長も来ますよ」
時刻は朝8時過ぎといったところ。ジョゼリーヌの案内で、ミーティング会場であるホールに向かっている。
黒い大理石でできた廊下を、いそいそと進む。王城は広いので、どこへ向かうにも時間がかかる。普段はお散歩気分でのんびり歩くのだけど、今みたいに気が急いているときは、どうにももどかしく感じる。
「河童さんは騎士団長だものね。でも、申し訳ないけれど私は副長の方が楽しみなの」
ミーティングのメンバーは、私、デル様、騎士団長である河童さん、そして副長の4名だ。
(だってまさか、ライが騎士団の副長になっているだなんて……!!)
先日の反省を生かし、私は国の組織について役職だけでなく名前や魔物としての正体など、すべて頭に入れた。名簿を見て『チャラ男のラファニーが外務大臣』で、『鶏屋のライが騎士団副長』ということを知った時は、驚きのあまり椅子から飛び上がり、二度見、いや五度見くらいしてしまった。
(世の中変わりすぎじゃない?)
10年という月日の重みを、こういうタイミングで感じるとは思わなかった。
(ラファニーはともかく、ライは私のことを覚えてくれているといいのだけど)
ラファニーとは1回しか会ったことが無いけれど、かなり強烈なチャラ男だったから覚えていた。でも、向こうはまず忘れているだろう。
ライの鶏屋には数えきれないぐらい行っていたし、結構親しかったから、もし忘れられていたら正直ショックである。
(騒がしくて好奇心旺盛だったライが、騎士団の副長だなんてね。きっと騎士団でもあれこれ首を突っ込んで、お調子者として有名になっているに違いないわ。トロピカリ時代は20歳前だったから、今は20代後半のはずね)
なんてことを考えていると、ホールに到着した。
ジョセリーヌがドアを開ける。中に3人の男性が見えた。
「こんにちは、セーナです。……私が最後ですね、お待たせして申し訳ありません」
「ああ、私たちもさっき来たところだから気にするな。こちらにおいで」
私に気づいたデル様が、ぱあっと顔をほころばせて手招きをする。その様子を見て、私も自然と頬が緩む。
ホールは会議室仕様に整えられており、黒板や資料の山が運び込まれていた。
円卓のような机の、デル様と緑頭の男性の間が私の席のようだ。
(緑頭の方が河童さんかしら)
デル様ではない2人は、それぞれ銀と緑の髪色だ。銀髪のほうはちょうど背中をこちらに向けるように座っていて、顔が見えない。確かライは銀髪だったから、消去法だと緑頭が河童さんだろうと当たりを付ける。
デル様の手招きに応じて、円卓に歩を進める。
河童さんは緑のしっとりした短髪に、ところどころ傷がついた褐色の肌。筋骨隆々といったガッチリ体系で、騎士団の白い制服がピチピチである。いかにも屈強な男という風貌だ。
私が近づくと、彼はサッと立ち上がり、敬礼をした。
「セーナ殿下、お初お目にかかります。それがしは、
きりっとした男らしい笑顔でご挨拶をしてくれる河童さん。その背丈は非常に高く、ムキムキで大柄な体格も相まってデル様よりも大きいように思えた。
「初めまして河童さん。私もお会いするのを楽しみにしていました! あとでお家のお話を聞かせてくださいね。あっ、これ、つまらないものですが、どうぞ」
持ってきた平たい箱を差し出す。
「こちらを、それがしに? 開けさせていただいてもよろしいでようか? ――――おお、なんと素晴らしい皿でございましょう! 至極光栄にございます!」
「気に入って頂けたのなら嬉しいです。この模様、いいでしょう? 日本で採れる毒キノコをモチーフにしていまして、これがタマゴテングダケ、こっちがシロタマゴテングダケ、その隣がドクツルタケなんです。絵師さんにイメージを伝えるのに苦労しましたよ~!」
高級きゅうりかお皿かで悩んだ結果、ロシナアムの「生ものはあまりよくないのではないか」というアドバイスを得て、オーダーメイドのお皿に決めたのだ。喜んでもらえたようで、とても嬉しい、悩んだかいがあったというものだ。
「懐かしいですなあ。それがしの沼地の近くにも、よくこのようなキノコが生えておりました」
「セーナの故郷の話なら私も興味がある。混ぜてほしい」
ずいっと割って入るデル様。ちょっとむくれている。
なんだろう、もしかしてデル様もお皿が欲しかったんだろうか。ふふ、可愛いんだから。
微笑ましく思いつつ、着席する。
正面に座っている男性の顔が目に入った。。
(……えっ、誰?)
正面に座っているのは、記憶にあるライとは似ても似つかぬ、超絶美形だった。
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