第12話 「生存競争」
大手企業Xハウスは、80年の歴史を持つ老舗ハウスメーカーだ。AI建築士を導入し、建材の規格化を極め、工場で生産された部材を現場に運び、組み立てることでコストを抑えている。統一された規格の部材を使うため、間取りは違っていても、建物の外観はどれも似たようなものになるのが特徴だ。
一方、ライバルのW社は、創業からわずか7年で急成長した新興企業だ。大規模なリストラを行ったXハウスとは異なり、W社はAIを活用することを前提に設立され、少人数で効率的に売り上げを伸ばしている。W社は、木粉を主な原料とし、一部金属粉を使って、3Dプリンターを内蔵した自走ロボットで現場で建物を直接建築するのが特徴だ。
AI建築士が設計を行う点ではXハウスと同じだが、W社の施工は現場で行われるため、使用される部材はすべて特注品と言える。また、3Dプリンターを使うため、建物の端部が丸みを帯び、一般的な建築物とは異なる独特の外観を持つ。
XハウスのAIは、空き家問題に着目し、国に「空き家解体法」を提案。法案が施行されると、Xハウスはその解体事業を一手に引き受け、大きなビジネスチャンスと捉えていた。また、国内の林業が衰退している現状を好機と見て、ほぼ無料で全国の森林を買い占めていた。
その理由は、ライバルであるW社が木材を主原料とするため、Xハウスが木粉の供給を独占することで価格を吊り上げ、W社を経営的に追い詰める狙いがあった。仮にW社が木粉を購入しようとしても、Xハウスは莫大な利益を得ることができるという、AIの戦略的な進言によるものだった。
世界に目を向けると、気候変動による影響が激しく、森林は大規模な火災に見舞われ、干ばつで枯れ、砂漠化が進行していた。国内に森林が残っているというだけでも奇跡に近く、それを有効活用していない他社を、XハウスのCEOは内心笑っていた。すべてはAIの助言のおかげだが…。
一方で、懸念もあった。国内の住宅需要は減少する一方で、多くの同業者が次々と衰退し、消えていった。AI建築士を導入し、大規模なリストラを進めた企業の中には、設計士の反乱によって瓦解した例もあった。
XハウスのAIの進言はこうだ。
XハウスAI「我が社の利益を最大化するには、より大きな市場を求め、海外に進出するべきです。木材を押さえている今が絶好のチャンスです。」
しかし、その進言には大きな障害があった。現在、海には大量のゴミがあふれ、プラスチックごみが海岸を埋め尽くしている。船のスクリューにごみが絡まり事故が多発し、船舶の往来が非常に困難になっていた。XハウスのCEOは、海外進出にはリスクが大きすぎると判断した。
一方、木材と木粉の供給をXハウスに押さえられてしまっているW社にも光明があった。データは簡単に海を越えられるため、W社の自走式3Dプリンターさえ輸送できれば、海外でも多様な建物を作ることが可能だった。
W社AI「我が社の強みを活かし、海外市場を狙いましょう!航路が閉ざされている今こそ、チャンスです!」
しかし、海外では木粉どころか木材そのものが希少であり、W社のCEOも頭を抱えていた。
そんな折、ネット動画で「自然と人が集まる家」「賑わう限界集落」を特集していた。それは、AI建築士が全盛の時代に、未だに仕事が途絶えない建築家K氏の特集だった。
両社のCEOは、ほぼ同じタイミングで、建築家Kに相談しようと心に決めた。
というのもXハウスCEOもW社のCEOも、かつてKに師事していた。今は「どちらが優れ、そしてこの厳しい時代を生き残れるか…」という競争心を常に抱えており、犬猿の仲といえるのだが…。
Kは、XハウスCEOとW社CEOを同じ食事の席に誘う。目を合わせない両者…共に「なんでこいつがいるんだ…」と思っている。
XハウスCEO「K先生、限界集落の話…あれは営業妨害ですよ。あれ以来、各地でAI謎解きツアーが始まっています。せっかく解体事業を拡大させるためにロボットを大量に購入したし、オペレーターを大量に雇ったのに…」
K「他人の真似をした地域は、じきにつぶれるよ。実際自分の目で見て、歩いて、その場所にいる人の本気度を感じないとね。」
W社CEO「営業妨害だって?どの口が言うんだ!製材用の森林を買い占めて、木粉を独占している奴が…。」
XハウスCEO「苦労してると、性格までひねくれるんですね~。私は衰退した林業を復活させるために慈善事業をしてるんですよ。それが理解できないなんて、残念ですね。」
険悪な空気が流れる…
K「単刀直入に… … …お二人とも…できますか?」
Kは、Xハウスには林業、とりわけ植林に力を入れること、そして解体事業のロボットを運転するオペレーターの育成を進めるよう指示した。さらに、木材や木粉をより安価に流通させるネットワークを構築するよう提案した。
「まぁ…K先生が言うのならば…AIはそんな判断しませんけど…」
一方で、KはW社に対して、慈善事業に活用する新たな3Dプリンター内蔵のロボットの開発を急がせた。
W社CEO「慈善事業ですか?…なんの利益になりますか?広報活動?AIはそんな判断をしませんが…まぁ木粉がこれまでより安価に入るなら仕方なしです…」
K「3Dプリンターの開発はお手の物でしょ?」ニコニコしながら指示を出した。
やがて、W社は海洋プラスチックごみを収集し、廃れた港町にプラスチックを原料にした3Dプリンターで建物を建てる事業を開始。その建築物は、美しい曲線を持ち、Kが自らデザインした。海洋プラスチックごみは無料で手に入るため、材料費はかからず、建物が劣化すればまた原料に戻せばよかった。
Xハウスの林業や解体事業は、多くのオペレーター需要を作り出し、AIに仕事を追われた人々を雇うことができた。そして、荒れ放題だった国内の山林が、整備され、国産杉や檜が流通し始める。K氏自らデザインした伝統的純国産木造建築が話題となっている。
XハウスCEOは、自社のAIに近況を報告させた。
XハウスAI「当社が尽力した国産木材の生産と流通網のおかげで、W社の知名度も売り上げもうなぎのぼりです!」
XハウスCEO「くそ!あのたぬきおやじ…自分のデザインが売れて、W社が好調なだけじゃないか… 建築メーカーの生存競争が激しいのは知っているはずなのに…」
W社CEOは、自社のAIに近況を報告させた。
W社AI「当社の海路清掃活動のおかげで、Xハウスの海外事業が順調に推移しています。」
W社CEO「くそ!あのおっさん…自分の名前が売れて、Xハウスが好調なだけじゃないか… このままでは、メーカーの生存競争に敗れてしまう…」
それぞれからクレームが入ったK
それぞれに同じ文章を返信した…
K「利他の精神。これが最も“効率的”な方法だよ。
人類が、AIとの生存競争に生き残るためのね。」
「未来の日常は家に居るのが無難です」 シャーリーAコックス @manybook
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