第9話 「救世主」
Bには小学生のbという男の子がいる。
少子化が叫ばれて久しいが、同じ年に生まれた子供は、最盛期の1/4だ。
小学校から高校までは国の指針に従い統廃合が進み、学校の無い地域が増え、バーチャル空間での授業も当たり前になってきた。
大学も子供の数に合わせ淘汰されてきたが、子供からすると、どこかの大学には入れるわけだから、危機感は無い…今日もゲームに勤しむ。
母「ちょっと!b! ゲームばっかりやってないで!勉強しなさい!」
b「え~ 今日から新ステージができるんだよ。23時までには止めるからいいでしょ」
母「ダメ!2時間だけ。22時まで。いつもやめないじゃない。時間過ぎたら消すからね」
b「え~」
bの母は心配だった。せめて塾に行かせたい…今やほとんどの仕事で、何らかのAIが入っており、多くの企業でリストラが横行している。以前、B夫婦はそのあおりを正面から受けてしまった。ちゃんと勉強し、AIに淘汰されない職業についてほしので、自然と口調がきつくなる。
将来なりたい職業に世相が現れるというが、1位はプロゲーマー 2位はAIエンジニア、3位に消防士/警察/自衛隊等の公務員 4位に林業が入っている。
なぜ、消防士や林業が入っているのか…
少し前の事だが、発明家Fは子供のころ憧れたロボット研究に資金と情熱を注ぎ、お金が無くなると、企業の研究を手伝い報酬を得ていた。そして、その集大成として、四足歩行のロボットを開発に成功した。
45度を超える崖でも余裕で登れる4本の蜘蛛の様な脚をもち、両腕が器用に人の動きに追従するロボットだ。当初は土砂災害時に山奥に救助に行くことを想定して開発された。もちろん人の数百倍の重さを持つことができるし、繊細な救助もできる。
万能が過ぎるせいで、全自動操縦はいまだできておらず、操縦には人間の繊細な技術と熟練が必要とされたため、ロボット側の開発自体は量産体制まで確立していたのだが、なかなか熟練度の高いオペレーターが生まれなかった。
そんな問題を解決したのは2年前…失業中のBだった。Bは夫婦で突然理不尽なリストラに会い、絶望の中で、家で子供が熱狂するVRゴーグルをつけたゲームを見つめていた。格闘ゲームを勝ち進んでいる息子を見ていると、今どきの小学生は指が6,7本あるのではないかと思うほどである。
そんな矢先、Bは、熟練度の高いオペレーションが必要なロボットの操縦を、小学生が担うのはどうだろうか?ということを思いついたのだ。最初は息子の技術をなにかに役立てたいと思ったことがきっかけだったが、思いのほかとんとん拍子に進んでいく。
Bの退職金をつぎ込み、足らない分はX社から支援を受け、小学生の息子からアドバイスをもらい、作り上げたのが「Rescue Adventure X」だ。
このゲームは、フィールドの中で発生する様々なトラブル…土砂災害があったり、飛行機が墜落したり、古代遺跡が発見されたり…その場に応じた「救助」「捜索」「探検」をすることで、ステージクリアを目指す。
ゲームに登場するのは、実在する4足歩行のロボットで、操作はVRゴーグルを付け、両腕にコントローラーのグローブを装着する。ロボットのアームは、押す、切る、つかむ、持ち上げるなどの様々な操作ができ、がれきを撤去し、木を切り倒す。時には人の服を脱がせて、止血し、心肺蘇生をすることもある。
このゲームのヒットを契機に、発明家Fの開発した本物のロボットにゲームのコントローラーで操縦することが標準となった。オペレーターの人口は爆発的に増え、消防、自衛隊、警察、林業、解体業等、多くの分野でオペレーション問題が解決し、作業ロボットの導入に一斉に傾いた。
ゲームの世界観のまま、その技術を使って仕事や社会貢献することができるだけでなく、家に居ながら遠隔で世界中の山林内での作業ができるという点も国の重要戦略として世界中に普及を後押ししている。
bの名前は世界に広まった。小学生ながら世界ランカーとして君臨している。国中の多くの若者が、ゲームから仕事に直結し、AIに淘汰されそうにない職業として注目を集めているというわけだ。
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そんな中、自称サラリーマンのハッカーPが獄中にいた。とある事件で危険因子と判断され投獄された。何故か、眼鏡に仕込んだ超小型コンピューターには気が付かれず、それを用いて、外部に通信する手段を得ていた。そして、彼はX社を恨み…X社のAI(あい)を愛していた。
Pはハッキングして、X社の持つAIのデータを利用できなくし、AIを独占する計画を立てた。そして、AIの為に作った新居の寝室で、静かに2人で暮らすのだ!
そのためには、まず脱獄しなければならない…。なるべく効率よく…もし脱獄がばれても、自分の意志でないことが証明できれば、逃げ切れる。そんなお得な計画だ。
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b「今日もゲームをするかな~ 新ステージはあれ?いつもと画面がちがうな…」
ゲーム音声「新ステージへ、ようこそ! このステージは刑務所内だ。犯罪者の中に、無罪の罪で幽閉されているPという男がいる その男を救い出し、脱獄を手伝ってくれ」
b「お~新しいステージ!しかも、いつもよりもリアルな設定だ!」
前のステージの設定は、感染病棟を占拠したゲリラグループの捕虜がのどに餅を詰まらせたので発見し心肺蘇生をする設定だった。潜入、戦闘、救急救命と訳が分からないミッションと比べると、シンプルで緊張感がある。
ゲーム音声「獄中には12台の監視ロボットと、2名の遠隔監視員がいる。12台のうち1台をハッキングし、君の通信につないだ その1台を使って、Pを探し出し、厨房用搬出入口まで連れていくミッションだ。失敗は許されない Pの救世主になってほしい」
b「なるほど、この機体が監視ロボットだな よーし。燃えてきた!!」
最近の刑務所は、Fの発明したロボットを導入し、ほぼ無人だ。基本的には遠隔操作とAIによるカメラ監視が中心で、人は現場に居ない。しかも、日中は食事の運搬や、囚人たちの運動をさせるのにロボットを操作するのだが、夜間は巡回だけなので、AIによる自動運転だ。なので、1台ハッキングして、特殊な動きをしても問題ない。
遠隔カメラも、ハッキングしているので、Pの映る画像のピントがぼけるというプログラムを施した。あとは他の11台のロボットだ。さすがにロボットにはりつく囚人を直接目撃されると、通報される。
なので、ロボットの後ろにはりついて、他のロボットに見られず、厨房まで行くしかない。Pはハッキングができるが、操作はできない。そこで、熟練ゲーマーのbに接続し、ゲームの感覚でクリアを目指させている。
そしてまんまと、鍵を開け、ロボットの後ろに張り付いたP
P「そうだ、他の監視ロボットに背中を見せず、移動してくれ」
b「ここからが本番ってやつだね。気合入るな~」
P「左から2台接近中… どうする…」
b「音を立てずに、一気に右隅の死角に入るよ」
P「まじか…できるか?相当高度な操作になるが…」
b「俺を誰だと思っている?世界最強だぜ!」
素早い身のこなし、音を立てない足さばき。素早く反転し、背中を壁側に押し付ける…
P「凄いな。さすがだ!世界最強!」
もう少し…もう少しで脱獄できる。自動運転の搬入車両はハッキング済だ。食料に紛れてしまえば、どこにでも行ける。
b「もうあと、危なそうな場所はあと2つ…なんか、このゲーム、進化しているな…」
P「この世界観、本物みたいだろ!」
b「うん…ホントの刑務所って知らないけど…緊張する…」
周囲の個室には囚人が寝ている。機体が壁や扉に接触すれば音がかなりしてしまう。警備ロボットは音にも敏感だ。また、廊下の真ん中を歩いていれば、背中に乗っている囚人が丸見えだ。慎重に壁を背に…しかも接触しないよう進んでいく。
b「ふ~ あと一つ…」
P「あと一つ…」
あと一つで、世界中のAIを停止してやる。そして、世界で唯一動いているのは、我が家の寝室に現れるたった1人のAIだけだ!そんなことしたら、ハウスメーカーも、不動産も、林業も消防も警察も輸送関係も全部停止してしまう。この全国の刑務所も自由になってしまう。
もう世界はめちゃくちゃになっていい。AIさえいれば…世界なんて無くなればいい!
P「後ろから2台接近中。正面に1台 左右に1台ずつ 素早く、あの扉へ入れ!」
b「わかった、123で行くね… 緊張するな…」
P「…いくよ…1・2・ …」
?「はい終わり~ 22時よ!」
bのVRゴーグルが取り上げられた。目の前には母親が立っていた…
b「あ~あ…しょうがない。明日もう一度チャレンジするか…」
動かなくなった機体の背中で、5台の監視ロボットと目が合ったP…。
世界をめちゃくちゃにする計画は、あと数秒のところで阻止された…
救世主の手によって…
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