第8話 「文化のはじまり」
「よくぞ、事件を解決し、この神社にたどり着いた…全員で拍手~!」
ハウスメーカーのXハウスは、最新のAIシステムを導入し、住宅販売を効率化するためにデータ解析を進めていた。AIはすぐに問題を発見する。
「新築住宅の販売が低迷している主な社会的な要因は、空き家の増加です。特に地方の都市では空き家が多く、新築を建てることのできる敷地が少ないです。空き家解体法を国に提言し、使われていない家は速やかに解体するべきです。 そして解体ができるロボットの開発に力を入れましょう」
その指摘に基づき、国に働きかけをしたことで、空き家解体法が施行された。空き家は解体が義務化され、罰則が強化された。空き家を放置すると、税金という名の罰金が銀行から勝手に毎年引き落とされるという内容だった。銀行も手数料が入り、国や自治体も税収として潤う。
都市部や住宅地ならばXハウスにとって有効ではあったが、どうでもいいところ…中山間地域の限界集落においても解体の波が押し寄せることになっている。「住んでいない」もしくは事務所や店舗などは「使われていない」と判断されれば、即「解体命令」か「罰金」…近い将来「強制解体」となる。
とある山の中の集落…
集落には古い家が多数残っているが、住民は数人しかおらず、集落全体が消滅の危機に瀕していた。村の住民たちは、先祖代々受け継がれてきた家屋とともに、村の歴史や文化を守りたいと強く願い、解体に反対する。
また、空き家の所有者も、罰金が毎年続くのは勘弁してほしいので、土地建物の所有権を自治体に寄付したいと思ったが、相続人が複数いるし、親戚とはいえ会ったこともない相続権者の話をまとめるのは、一苦労だったので、罰金を覚悟していた。
そんな中、住民と空き家の所有者たちはかつて村のまちづくりに関わっていた建築家のKに相談を持ちかけた。Kは、AI設計士全盛の時代に、いまだに仕事が続いている珍しい人物であり、新しい時代の創造に力を入れる建築家だ。
Kは集落の人々の話を聞き、集落内をくまなく歩いた。解体されるべき家屋は「使われていない」と判断されているが、それを逆転させるための方法を考え出す。
K「すべての空き家に最近発売されたAIホログラムを設置しましょう。高額な罰金を考えたら、集落の空き家の数だけ買っても負担ではないでしょう。」
住民「誰も住んでいない家に、立体映像を投影して生活している人がいるかのように演出するってことですか?」
K「それだと最近ニュースを騒がせている居住偽装になってしまいますので、村の歴史や文化を紹介するAI語り部として機能させましょう。」
住民「なるほど、全てのホログラムに歴史を教えればいいのですね?」
K「はい。それと、それぞれの家の持ち主の個性を重視しましょう。気難しい人、優しい人、親切な人、怒りぽい人。個々の生きた個性を重視しましょう。遺品や写真、SNS等あると良いですね。それから、なにより各ホログラム間の連携が大切です」
住民「わかりました!やってみます!」
AI語り部が機能し始めてしばらくすると、集落のある村役場の職員がKのもとにやってきた。
役人「Kさん困りますよ。余計な提案してくれましたよね?国からはお叱りをうけるし、確かに空き家の解体は免れましたが、あの集落に住んでいる人はほとんどおらず、インフラを維持する予算も限られています。このままでは村全体の維持が難しいんです。」
K「でも、明かりがついて、話し声もして活気があっていいじゃないですか」
役人「でも、行くと小難しい歴史を語り、まるで幽霊の住処です。怒り出す人もいるんですよ。やめるように住民や空き家の所有者を説得してもらえませんか?」
K「ん~インフラの維持費用の問題というですね」
役人「はい。その通りです!是非お願いします!」
Kは集落のAIに会いに行くことにした。
集落のAIホログラムは、この集落の歴史や文化、そして人々がどのように暮らしていたかを詳細に語り出す。AIは村誌や関連する書籍を暗記し、地域の博物館の知見をすべて持ち、かつ各住戸の住人の個人的な記憶を継承している。
K「こんにちは Kと申します。元の自治会長さんですよね?」
AIホログラム住民「K様!我々の創造主ではないですか!遠いいところ、よういらっしゃいましたな。いかにも私は元々自治会長をしておりました。今日は私の集落の歴史を聴きにきたのですかな?」
K「固いな~ じつはね、皆さんを解雇しなければならないかもしれないのです」
AIホログラム住民「なんと!ようやく、この集落を解体から救い、これから歴史を継承しようとAI共々全身全霊…いや霊ではなく、ホログラムですが…連携を始めたところでしたのに…」
K「そこでね… … …!」
AIホログラム住民「…活気にあふれる限界集落ですか… 矛盾を感じますが…」
Kのアイデアを受けて、集落のAIホログラムたちは話し合いを始めた。まぁ、話し合いといっても空き家からは出ることができないので、通信でやり取りするのだが、集落内に配置された複数のAIホログラム同士が連携し、観光客を巻き込むイベントが開催されるようになる。
あるときは、集落内に隠し財宝がある設定の謎解きに巻き込まれ、ある時は、連続殺人犯を探し出す推理ミステリーに巻き込まれる。AIホログラムが役になりきり、ヒントを与え、観光客はAIが作り出した「今日の事件」を解決すべく、集落の中を駆け回るのだった。観光客同士の協力も必要な難事件が話題となった。
そして何より、文化や歴史をちりばめた、村の「魅力の告知」と、観光客からの「収益」を得ることを両立し、集落の空き家やインフラの維持費を稼ぎ、人間の大工に歴史ある集落の家々の修理、修繕、維持管理を依頼することになる。
AIホログラム「Kさんには感謝ですな」
集落住民「ホント、罰金も解体費もかからず、修繕費を稼ぐ方法まで伝授してくれた…しかも、何人か大工たち職人が移住もしてくれたし感謝しきれないな。あれ、彼は建築作ってないよね?建築家なのに…お金大丈夫かな?」
AIホログラム「確かに…それは良くないですね…彼を祭った神社を作りましょうか?我々の創造主Kにお金が入るように、ストーリーのゴールはすべて神社にしましょう」
翌日から、集落には、古より伝わるという賽銭という儀式が、紙幣も硬貨も見たことないこの時代に合わせ、手をたたくと課金されるシステムとして復活した。
噂を聞きつけ集まった多くの観光客たちは、協力して、捜査を行い、一日かけて犯人を捜し、宝を探すのだ。そして、Kの祭られる神社の前で、目的を達成し、喜びながら手を叩き、称えあうのだ。
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