第32話 険しい道のり
馬車が走り出して一日、夜になり野営をすることとなった。
明日はウルドを出して馬車を引いてもらおう。これ以上、旅で時間を無駄にするのは嫌だからね。
「さあ、体を拭きましょうね~」
「アウ、自分でできるよ~」
「ええ!? アキラ!? しゃべれるようになったの!?」
テントの中、エミがお湯でタオルを湿らせると服を脱がせてくる。昨日喋れるようになった僕が話すと彼女は驚いて抱きしめてくる。
「お母さんって呼んでアキラ!」
「エミお母さん?」
「きゃ~、我が子ながら可愛い~。ほらほらお父さんにも」
「レッグスお父さん!」
喜ぶエミに続いてレッグスも呼ぶと彼も驚いて走ってくる。彼女と一緒に僕を抱きしめると頭を撫でてくれる。
「会話を理解しているからすぐにしゃべるようになると思っていたが、こんなに早いとは。本当に俺の子か~」
「ふふ、私たちの子だからこんな天才に生まれたのよ」
「確かに!」
レッグスの声にエミが答えると抱きしめる力を強めて頬ずりをしてくる。愛されてる、前世のお母さんを思い出す。早く帰りたい。
「寝床もできましたよ。エルダートレントの力で作った木の家とベッド、ついでにタンスなんかも作ってしまいました」
「あら? テント要らなかったわね」
外から声が聞こえてテントから顔を出すとグラフが楽しそうに話してた。
丸太で四方を固めてログハウスみたいになってる。
エルダートレントの力は便利なんだな~。僕にはできない芸当だ。
「む、野営はテントだからいいんだ。そんな小屋」
「そんなこと言わないの。私はあっちの方がいいわ。それにグラフさんはアキラの従魔になっているんだから、あれはアキラの成果よ。認めてあげないと」
「あ、う。そ、そうだな。正直、テントでの野営は危険が多いからな」
グラフの作った家を見て憤りを露わにするレッグス。エミの答えを聞くと彼は意見を変えてくれる。
家族の意見に耳を傾けられるのはいいお父さんだな。
わざわざ見張りを立てないといけない野営。壁や家を作れるならやって損はない。家族の安全を第一に、とても大事なことだね。
家の中で食事を楽しむ。ちゃんとオーランスで楽しんだ食事を作れるようになったエミ、とても美味しくて頬が落ちる。
「美味しいです」
「ふふ、ありがとうアキラ」
素直に感想を口にすると頭を撫でてくれるエミ。
グラフもフィールちゃんも自分の町の料理に舌鼓。彼らは食べなれているだろうけど、美味しいと言ってくれた。本心から言ってくれているのがわかるほど嬉しそうにしてる。
エミの事が褒められると自然と嬉しくなる。
「じゃあそろそろ寝ましょうか」
食事を終えるとエミがそう言って寝床に移動する。キッチンダイニングの横に通路を挟まずに部屋がある。寝室になっていて二つのベッドがしっかりと作られてる。
「私はダイニングでベッドを作って寝ますので。アキラ様達はこちらで」
そういってすぐにベッドを木で作り出すグラフ。本当に便利な能力だな~。
『ス~ス~』
みんなが夢の世界に入る。僕はフィールちゃんと一緒のベッドに寝ていたんだけど、抜け出して家の外へ。
「アキラ様? 起きたのですか?」
眠そうにしてるグラフが起きてきてくれて声をかけてくれる。
「うん。もっと勉強しないといけないからね」
「勉強ですか。まだ1歳にもなっていないというのに。そんなにも元の世界に、お母さまに会いたいのですね……」
僕の答えを聞いてグラフは涙を流してくれる。彼は僕に泣かないでフィールちゃんに泣いてあげてほしい。まあ、嫌な気はしないけれど。
「【魔界】が精神世界というのはわかりました。この時点で既に魔法都市が出している本の記述を越えている話です」
「魔法都市?」
「はい。魔法都市は全ての魔法を追求する都市。種族を越え、全てのものを受け入れる都市です。魔族も多くいるので魔法に対して造詣が深い。魔王も所属していた経緯があります」
グラフの説明に驚く。
魔王なんているんだな~。というかどんな種族も受け入れてくれる町があるのも驚きだよ。
歴史を見ると迫害や差別が多いように感じたけどな~。魔法の知識を調べるうえでは種族関係ないってことか。
「【魔界】が精神世界。ということは【天界】が物質世界に通じている可能性もあります。こちらも魔法都市ですら行ったことのあるものはいませんが……」
魔界に行った初めての人はフィールちゃん、次がグラフなんだよな。それを考えるとグラフが一番異世界に近い人なのかも。
これは大きいぞ。元の世界への大きなアドバンテージだ。
「天界への行き方はわからない?」
「私は魔界を目指していました。天界はまったく逆の方向だと考えています」
「逆?」
「はい。人が魔物に落ちる行為は死と同じ。ですので天界は生、生きる行為だと思います」
僕の問いかけに答えるグラフ。
そうか、【魔界は死】で【天界は生】っていうことか。
でも、生きる行為って何をすればいいんだ? 蘇生魔法みたいなことかな?
でも、蘇生魔法は前人未到だ。欠損回復魔法ですら、難しいと言われてる。道のりは険しいってわけだ……。
「そんなに気を落とさずに。この命潰えるまであなた様にお仕えいたしますので」
「ありがとうグラフ。二人を人に戻す方法も探そうと思ってるんだ。力を貸して」
「そ! そのような! 魔物になったのは私のしたことへの罰と思っております。気にせずに。それよりもあなた様のやりたいことを。……ん?」
「え? どうしたのグラフ?」
話していると急にグラフが平原に視線を向ける。何もない、街道もない方角に冷や汗を流しながら見つめる。
「ん? ガキと男?」
革袋を一つ持った黒い体の男。人族じゃない。ブラックゴーレムみたいな体をしてる。
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