第31話 魔王


 アキラがオーランスで魔界が精神世界だと分かった時。

 魔族の国、【サダラーン】にて。魔族の王、【サターン】が町を見下ろせるテラスからオーランスのある方角に視線を向けていた。


「サターン様? どうされましたか?」


「メイデス。いや、何のことはない。天使の気配を感じてな。とても弱々しいものだ。気に留めるようなことでもない」


 【サダラーン四天王】の一人であるメイデスの疑問に答えるサターン。

 天使の気配とはフィールのことである。それを弱々しいと答えたサターン。彼は彼女以上に強いことが伺える。


「……メイデス。お前以外に暇をしている者は居るか?」


「サターン様。私は暇をしているわけでは。あなた様の護衛をしているんです! ……グダスが暇だと言っていました。他の二人は研究がどうとか言っていましたので無理だと思いますよ」


「グダスか。四天王の中では最強だな」


 メイデスの答えに顎に手を当てて考え込むサターン。彼の声にメイデスは嫌そうな表情を作る。グダスが自分よりも強いと言われて悔しいのだろう。

 しばらく考え込むと彼は納得するように頷いて指示を飛ばす。


「グダスにこれを渡せ。面白い玩具がいる」


「白い羽根?」


「天使と言っただろ? 【天界】への道を作られたらこの世の終わりだ。早めに始末したい」


 白い羽根を手渡すサターン。メイデスが首を傾げていると彼はちゃんと説明をする。その様子にメイデスは更に首を傾げる。


「気にするようなものではないのでは?」


「そう思っていたがな。油断は禁物だからな。天使はいつでもこの大地を狙っているのだから」


 メイデスの声に空を見上げて答えるサターン。まるで天使を知っているような口調に彼女は首を傾げた。


「天使に知り合いでもいるのですか?」


「……いるわけがないだろ。その羽根が天使のいる方角を示す。グダスに言っておけ。それと会話が出来るのならしてみろと伝えろ。【天界】への道を作らないと誓えるのなら手は出さないとな。グダスが死ぬこともないからな」


「グダスでも負けると?」


 メイデスの声に答えると不穏なことを話すサターン。彼女の問いかけにも頷いて答える。

 フィールが本当に天使ならばあるいは。サターンは口には出さないがそう思い無言で頷いて見せた。

 

「……それを聞いたらグダスは意地でも戦おうとするでしょうね。では伝えてきます」


 メイデスはそう言ってテラスから飛び立つ。蝙蝠のような羽根で鋭く飛び立つとマグマの滝の前へと降り立つ。


「グダス。サターン様から面白い話を聞いたわよ」


「あ? 面白い話?」


 マグマの滝へと声をあげるメイデス。声に反応して滝から出てくる黒い岩、グダス。ブラックゴーレムを模した体躯の彼はニヤリと口角をあげる。


「サターン様が面白いって言ったのか? それは楽しそうだ」


「この天使の羽根が示す先に天使がいるんですって。あなたを倒せるくらい強いかもだってさ」


「ほ~……。くくく、これは燃えるぜ。この世界で俺よりも強いのはサターン様だけだと思ってたのによ」


 グダスは普通の人ほどの大きさの黒い体を脈打たせ楽しそうに答える。体全体で心臓の鼓動を表しているように見える。


「メイデスは来るか?」


 脈打たせるのをやめて旅の支度を始めるグダス。メイデスは質問に首を横に振って答えた。


「行くわけないでしょ。それとあなたは止まらないと思うけど、負けると思ったら対話をしなさい。それで【天界】への道を作らないと誓うなら手は出さないと伝えるの」


「天界? するってえと、天使たちと全面戦争になるかもしれないってことかよ。これは更に燃えるぜ。サターン様は俺が負けると思ってるわけだ。燃える燃える! 挑戦者の気持ちになるのはサターン様以来だな」


 メイデスの話を聞くと体が大きくなるほど体を脈打たせる。彼は体を小さく維持しているようだ。大きくなるとどれほどの大きさになるのか、それは本人も分からない。



「じゃあ帰ります」


「うむ、レッグス殿。我らからの話をしっかりとレグルス殿に伝えてくれ」


 とうとうレグルスエイドに帰る日がやってきた。ネタフ王やバルトロさんに見送られて馬車が動き出す。みんな手を振って来てくれる。一応、命の恩人で町を救った英雄になってるから手厚いな~。

 グラフは今回のことで死んだことになってる。彼もエルダートレントを倒した英雄だったからね。居なくなったら大騒ぎになる。

 それはオーランスとして困るらしい。英雄は英雄として死なないといけない。裏切者ではダメなんだってさ。


「町が遠くに……」


 貴族の馬車に揺られて町を出る。フィールちゃんが窓の外のオーランスを見つめて呟く。グラフは複雑な表情で彼女の頭を撫でてあげてる。


「初めて家の外に出たのもつい最近だったのに。今度は町の外……。凄い速度で世界が動いてる」


「……すまなかったフィール。馬鹿な父親だった」


「え!? あ、違うのお父様。別に攻めてるんじゃなくて」


 フィールちゃんの声にグラフは申し訳なさそうに答えた。


「私が外に出ていなくても世界は動いていたんだな~って改めて思って。私も世界の一部になれたと思って嬉しくて……。あれ? なんか涙が。あれ……どうしちゃったんだろう」


 フィールちゃんは話しながら涙をボロボロとこぼす。グラフはどうすればいいのか分からずにオドオドしてる。ダメなお父さんだな~。


「は~い。ダメなお父さんね。こういう時は抱きしめてあげるの。ギュ~っとね」


「あう、お母さま痛いです」


「ふふ、次は女の子がいいかしらねレッグス」


 泣いた女の子は抱きしめるのか。エミの声に頷く。

 抱きしめられたフィールちゃんは思いっきり泣きだしてしまった。

 僕がやらないといけないことが増えたな。彼女達を人に戻す方法、それも探さないといけない。頑張るぞ!

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