第29話 勉強 魔界?

「バブバブ!」


「アキラ様? 召喚について知りたいのですか?」


 あの戦いから2日程が経った。レグルスエイドにはすぐに帰らずに予定通りの日程を守ってもらった屋敷で過ごしてる。あと2日程ゆっくりする予定だ。


 城から帰ってきたレッグスとグラフはとても疲れていたので一日は何も聞かずに寝かせてあげた。

 1日待ったので早速召喚について話を聞こうと思って声をあげるとウルド達と同じように僕の声が聞こえるみたいだ。

 従魔になってくれると僕の声を聞いてくれる。ありがたいな~。


 僕は長机に座って、前世の記憶を持っていること、前世の世界に帰りたいと思っていることを伝える。

 するとグラフは厨房で昼食の準備をしてるエミや庭で素振りをしてるレッグスに一度視線を向ける。


「二人を置いて戻ってしまうつもりですか? 私が言うのもなんですが。今の家族を大事にするべきでは? 私と違っていい両親なのですから」


 まさかの言葉がグラフから告げられた。僕は言葉がなくなる。前世のお母さんを大切に思っているあまり、二人をお母さんお父さんと呼べていないんだ。

 僕は二人を友達とかそういった間柄だと思っている、んだと思う。僕にもよくわからない。

 まだ言葉をしゃべれないから、それを理由にして親しくならないようにしているのかも……。ほんとにわからない。


「では説明いたします。確かに黒い世界【魔界】と言われている世界は全ての世界とつながっていると言われています。ですが戻れたという話は聞いたことがありません。戻ったらこちらには戻ってこないのですから当たり前ですね」


 グラフはそう言って俯く。

 確かな答えではないから残念に思っているのかな。

 確かに戻れたことを報告に危険な道を戻ることはないよな。たぶん、死ぬことと同義なことをしないといけないはずだから。


「【魔界】に入るなら、私やフィールのように魔物になれば入れます。フィールは既に魔界に入っているはず。聞いてみましょう。フィール、こちらでアキラ様に話をしてくれるか?」


「あ、は~い。エミ様、ちょっと行ってきます」


 厨房でエミの手伝いをしていたフィールちゃん。初めて会った時よりも感情豊かになってとても微笑ましい。

 彼女は魔物になった時に黒い世界に戻されてるらしい。

 グラフはまだ戻っていないからわからないのか。一度彼にも入ってほしいな。


「どうしたのお父様? アキラ様?」


「アキラ様は魔界、黒い世界について話をしてほしいそうなんだ」


「黒い世界? あ、お父様に閉じ込められたところかな?」


「あ、ああ。あの時はすまなかったな」


 フィールちゃんは僕の前の椅子に座ると指を口につけて考えながら話す。まだ彼女は魔界についてはあまり知らないみたいだな。グラフは申し訳なさそうに謝る、彼女は首を横に振ってほほ笑んだ。


「今があるからいいの。お父様が生きていてくれるだけで。それにお母さままで生きているって聞いたら俯いてなんていられない。それもこれもアキラ様のおかげ、私のわかることはすべて話します」


 フィールちゃんは微笑みながら話す。彼女の希望に満ちた瞳は僕にも力をくれる。


「黒い世界は真っ暗で見える範囲全てが黒いの。それでも歩くことが出来て、同じ方向に歩いてると見えない壁に当たりました」


 フィールちゃんは淡々と教えてくれる。僕はあの世界で恐怖で動くことはできなかった。フィールちゃんはとても強い子だな。探求心も高い。


「壁に沿って歩いてると指と同じくらいの赤い蝋燭がありました。蝋燭だから明かりをつけて使おうと思ったら、壁に張り付いているから外せなくて。そのまま壁に沿ってまた歩き出して、そうしたら色違いの蝋燭がもう一つあって。もちろん、取れないから無視して歩いて」


 蝋燭? 蝋燭がいくつもある黒い世界?

 それが別の世界に関係があるのかな?


「……太初の火ということでしょうか?」


「バブ?」


「天地が開けた始まりの火」


「??」


 グラフの言っていることが全然わからない。ようは世界の元となった火ってことかな?


「世界が蝋燭とは思いませんがその火が道しるべとなって黒い世界を案内してくれるのかもしれません」


 グラフは推測を話し、顎に手を当てて考え込む。難しい話だな~。

 でも、フィールちゃんは取ることが出来なかったって言っていたぞ。それじゃ案内はできないよな~。


「私が見たのは5本の蠟燭でした」


「5? 更に謎が……。いや、世界は無限に存在しているはず。もしかしたら魂が覚えている前世の数? ……ということはアキラ様!」


「バブ!」


 フィールちゃんの声に考え込むと嬉しそうに声をあげるグラフ。確かな証明もないのに喜ぶべきじゃない、だけど、少し光明が見えたような気がする。前世の数なら必ずその蝋燭が前世の世界に通ずる何かになるはずだ。

 憶測の域を出ない話に一喜一憂する。何もわからなかった状況から少しは前に進めた。嬉しいに決まってる。

 

 でも、僕が魔界に入る方法を見つけられてない。魔物になるわけにはいかないし、どうしたものか。

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