第28話 新たな従魔?

 レッグスは僕にそのグラフの魔石を差し出してくる。僕が首をかしげているとレッグスは微笑む。


「エルダートレントなんて使役できない。アキラに任せる」


「バブ!」


 苦笑いのレッグスに答えて手を伸ばす。魔石を受け取ると二つの魔石が重なっていく。あらかじめ二つの魔石にしていたんだな。用心深いというかなんというか。


「させん!」


 すると声が上がる。声の主はネタフ、バルトロと鋭い視線を向けてくる。


「エルダートレントと言ったら最上の戦力となる。そんなものを隣国に! それもすでにかなりの戦力を持っていることがわかった国にやるものか!」


 槍を向けてくる兵士達。ネタフの声でじりじりと僕らに近づいてくる。


「マスターに何かするつもりか?」


「死にたいらしい」


 ウルドとプラナが威嚇すると兵士達は後ずさる。ネタフに視線を向けるとバルトロが大きなため息をついた。


「王、懸念はわかります。しかし、我々では食い止めることはできません」


「バルトロ! 何を行っておる! これは一大事なのだぞ! 今止めねば!」


「なので提案がございます。エレービアと同盟を結ぶのです。それが不可能であるならレッグス殿達と取引を。彼らは我が国の食料に対して大変ご興味があると伺っています」


 バルトロの提案でネタフは考え込む。僕らを見つめてくるから頷いて答えてみる。彼らにもずっと見張られてたってことか。

 するとネタフは深く考え込んで大きく頷いた。


「両方検討したい。どうか、我らと融和を考えていただきたい」


 ネタフ王はそれほど馬鹿ではないみたいだ。現状の戦力を考え、握手の手を差し出してくる。レッグスは気持ちよくそれにこたえて握手を交わす。


「……マスターと呼べばいいのか?」


「ふんっ! お前はアキラ様と呼べ。新入りなのだから」


 やっと話がある程度まとまった。僕は安心してグラフの魔石にマナを注ぐ。

 するとグラフは跪いて聞いてくる。ウルドが腕を組んで答えると助けを求めるようにグラフが僕を見つめてくる。僕は頷いて答えてあげた。


「お父様は新入り? じゃあ、私の方が先輩かな?」


「ふぃ、フィール?」


 指を咥えて疑問を口にするフィールちゃん。グラフは不安に狩られて声を漏らす。


「冗談だよ。でもお母さまを殺したことは許してないから」


「……すまない。あ~、その話だが。彼女は私に愛想を尽かして故郷に帰ったんだ。エレービアにな」


「え!? もしかしてそれでエレービアを憎んでいたの?」


 笑顔で話し合う二人。まさかの私情で国落とし? どうしようもないお父さんだ。


「で、ではレッグス様。奥の部屋で話を伺いたいのですが」


「わかりました。ではウルドついてきてくれ」


「うむ、マスターの父上。了解した。では行ってまいりますマスター」


 バルトロに連れられて玉座の間の奥に入っていくレッグスとウルド。一人だと不安だったんだろうな。まだ完全に信用しきっていないからね。


「腕が折れた」


「こんな争い二度とごめんね」


 怪我をした貴族たちがそう呟いて僕らを見つめてくる。僕らというよりもグラフだな。彼はいたたまれない様子。

 回復魔法も学ばないとな。そう思っているとフィールちゃんが彼らに駆け寄っていく。


「お父様がごめんなさい。手を」


「え?」


 フィールちゃんは特殊な魔法のようなものを使う。普通の回復魔法は手をかざして光で包んで回復させる。

 彼女は手をつないだ人を光で包んで回復させてる。一人一人丁寧に回復させてあげてる。優しい子だ。

 改めて彼女を助けられてよかった。お父さんのグラフはとんでもないやつだけどね。


「……私は間違っていたな」


「バブ!」


「ははは、赤子に頭を撫でられるとは。私はこの子よりもずっと子供だったのだな」


 プラナに抱き上げてもらって悲しそうにしてるグラフの頭を撫でてあげる。

 彼は涙目の視線をフィールに向ける。僕らに完膚なきまで負けて改心してくれたかな? それならよかった。


「バルトロ様の命令で迎えに上がりました。お帰りは馬車で。どうぞこちらです」


 兵士さんがそう言って敬礼する。僕らはキョトンとしてしまう。レッグスは帰れないのか。


「レッグスはどうなるんですか?」


「話し合いは夜も続くそうなので迎えに来たんですが……」


 そんなに長い会議になるのか。レッグスもウルドも大変だな。


「私も残ろう。ネタフ王への謝罪もしたい。もちろん、すべての被害者にも」


「お父様、私も」


「いや、フィール。お前に責任はない。アキラ様と一緒に屋敷で休んでいるといい」


 グラフはそう言って玉座の間の奥の部屋に入っていく。フィールは不安そうに彼の背中を見つめてる。


「お父様大丈夫なのかな?」


「ふふ、大丈夫よ。あの顔は決意した目だったもの。レッグスが私と結婚を決めた時の表情と一緒だった」


 不安を口にするフィールちゃんにエミが答える。優しく彼女の頭を撫でてあげるエミ。安心したように体を預けてるフィールちゃん、二人を見てると安心するな。


 僕らはレッグス達を置いて屋敷に帰る。

 馬車の中で御者の兵士さんに聞いたんだけど、あの屋敷は僕らのものになるらしい。いつでも来てくれってこと見たい。

 なんだか一瞬でお金持ちになってしまった。

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