第27話 激戦そして、終焉

「はぁ! 娘を魔物に出来るとわかったのに自分は魔物にしないとでも?」


 グラフが顔をあげる。奴の足から木の根のようなものが地面に突き刺さっているのが見える。地面が揺れたのはその衝撃?


「エルダートレントの力! とくと見よ!」


「木が地面から生えてくる!?」


 グラフの声と共に地面から無数の木々が生えてくる。お城の中にまで生えていて、一瞬で周囲は森の中。


「「させるか!」」


 レッグスとバルトロが声をあげてグラフに剣と槍を突き入れる。確かに仕留めたと思った二人、でもおかしなことに気が付く。


「「血が出ない!?」」


 確かに切りつけ剣、それと突き入れた槍に血が付いていない。仕留めたグラフの顔を見るとニヤッと口角をあげる。


「はははは、エルダートレントとなった私は核を持つのだ。それがなくならない限り私は何度でも生き返る」


「そ、そんな!? ではこの木々すべてが」


「そういうことだネタフ。面倒だからお前たちにエレービアを落としてもらおうと思っていたがもういい、私一人でフィエルももういらん」


「ぐあっ!?」


 グラフとネタフが会話を交わし、話し終わるとすぐに木々から枝が伸びて僕らとオーランスの貴族たちを捕まえていく。

 高くあげられ、できたばかりの王城に生える森を見下ろす。見事に森が城を飲み込んでる。


「は~っはっはっはっは。そろそろ会話も飽きてきたな」


「お、お父様……。やめてください」


 呆れにも似た声を出したグラフ。

 するとフィールちゃんが苦しそうに声をあげる。


「魔石からのマナが潰えそうなのだろう。早く楽になるがいい」


「お父様……優しいお父様に戻って」


「……優しい? 私がいつ優しかった? 私はいつもお前を殴っていただろう」


「うん、ずっと痛かった。だけど優しかった。市場でアキラちゃん達を見張っていた時にパンを買ってくれたり……本も……」


 涙目でそう訴えるフィールちゃん。エミもそれを聞いて涙が零れてる。


「……それは演技だ。馬鹿な娘よ。やつらの強さを知るためにやっていただけだ」


「それでも! それでも私はよかった。演技でも……初めて与えてもらったものだったから」


 涙目で訴えるフィールちゃん。彼女の言葉が終わると静寂があたりを包む。

 僕は祈る。……グラフさんに、彼女の想いが届いてほしい。僕は彼女のお父さんを倒したくない。涙目で森を見つめる。彼女と一緒に。


「……役立たずな娘だった。最後まで。では皆様方、短い間でしたが最後の時だ」


「ダメか。アキラ!」


「バブ!」


 グラフの声と共にレッグスがフィールちゃんの魔石を投げてくる。エミに抱かれながら見事に受け取るとマナを注ぐ。

 フィールちゃんの体から白い光が溢れ、巻き付いていた枝が壊れる。

 落ちると思った瞬間、フィールちゃんのあたたかな光が僕らを浮かせる。


「バブバブ!」


「「マスター!」」


 僕はすかさずウルドとプラナを召喚。森を蹴散らしていく二人。二人はやっと出番で嬉しそうにしてる。


「ぐあ!? あ、あれはゴーレムを紙のように蹴散らしていた従魔!? その赤子がマスターだったのか!?」


 グラフの苦しむ声と共に枝が元気なく地面に降りていく。レッグスとバルトロが貴族たちを救出して無事に地面に着地させる。それでも人手が足りずに数人がけがを負ってる。

 森自体がグラフの体なのか? それならすべての木を切り落とせば!


「バブ!」


「はい! マスターアキラ!」


 フィールちゃんにも森を攻撃するように指示を飛ばす。フィールちゃんにグラフを攻撃させるのは気が引けたけれど、彼女は一生懸命答えてくれる。

 彼女も止めたいんだ。止まってほしいんだ。


「親不孝者が! 私の野望を止めるというのか!」


「元に戻って! お父様!」


 光輪を作り出して木を切り落とすフィールちゃん。グラフが苦しそうに声をあげるけれど、彼女は止まらない。僕も見ているだけじゃダメだ。

 木にドロップキックをかましてなぎ倒す。凄い威力で僕もびっくりだ。数本倒すとグラフが枝を伸ばして攻撃してくる。

 オーランスの兵士達がどんどん傷ついていく。


「オーランスのプライドを見せよ! 押し返せ!」


『応っ!』


 それでも木へと攻撃を繰り出すバルトロ達。根性を見せてくれる。


「ダブ! バブ?」


 みんなに負けじと僕も木を倒していると木から緑色の水晶のようなものが出てきた。綺麗だから拾ってみると悲鳴が聞こえてくる。


「や、やめろ~!」


 グラフが悲鳴を上げて地面から現れる。こんなに叫ぶってことはこれが核なのかな?


「か、返せ!」


「バ~ブ!」


 攻撃がやみ、周囲の木々が枯れていく。見晴らしの良くなった城の庭にグラフが木の中から現れる。

 子供のように声をあげるグラフが僕に手を伸ばしてくる。肌が木のようにひび割れていて今にも枯れてしまいそうになってる。


「お父様……」


「ふぃ、”フィール”」


「やっと名前を呼んでくれた」


「あ……」


 グラフに抱き着くフィールちゃん。彼は優しく彼女を抱きしめている。


「魔石を……」


「レッグス……。わかった、私の負けだ。はは、まさか招待した者に阻まれるとは策士が自分の策に足を引っ張られるとはな。おかしなものだ」


 レッグスが手を伸ばして魔石を求める。彼の魔石は二つあるみたいだ。僕が持っているのはエルダートレントの魔石なのか? グラフは自分の魔石をレッグスに手渡した。

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