第26話 ”フィール”
「……グラフさん、あんた。娘さんはどうした」
真相を知って僕がグラフを睨みつけているとレッグスも気が付いて声をあげる。
エミも薄々気づいていたみたいで目に涙をためてフィエルを見つめる。仮面をつけ、翼が付いているだけ。気が付かないほうがおかしいか。いや、親なら絶対にやらない、そう思っているとすぐには気が付かないか。
「ふふ、は~っはっはっはっは。我が子ならそこにいるだろ! 我が天使【フィエル】。最高にして最強の【従魔】」
グラフは笑い出して真実を話し出す。さすがの状況にネタフ王や貴族たちは顔を青くさせる。
「お、王。グラフ様は気をおかしくしています。オーランスの気品を犯す存在になりうる」
「うむ」
貴族の意見を聞き入れて頷くネタフ王。彼が手をあげると玉座の間にいた兵士たちが僕らとグラフに槍を向けてくる。
「ネタフ様。これはどういうことですか?」
僕らだけならわかるけど、グラフも槍を向けられて声をあげる。
「グラフよ。研究熱心なのはとてもいいことじゃ。だがな、我が子まで実験に使うなど許されぬこと。これが外に漏れでもしたら儂への評判も悪くなる」
「ははは、王であるあなたが評判を気にするのですか? 民からの? くくく、小さい小さい。やはりあなたは王にはふさわしくない!」
「なに! 儂を愚弄するか!」
「何を怒っているのですか。真実ではないですか! 保身、王が自分の見え方を気にしているのですよ? それはもう、王ではない!」
グラフとネタフ様が言い合いになりどんどん険悪なムードになっていく。
ネタフ様は兵士達を見つめてグラフへとにらみを利かせる。すると僕らを囲っていた兵士がグラフへと向かう。
すべての兵士がグラフを囲うとグラフは大きなため息をついてフィエルに顎で合図をする。
「離さなくていい。傷つけない」
「バブ?」
その合図に答えるように僕に声をあげるフィエル。手を離さない僕を抱き上げてグラフと兵士達の前に一瞬で移動する。
僕よりは遅いけど、普通の人じゃ出せない速度だ。レッグスと同じくらいか。
「バルトロ」
「ハッ! そのものは既に人ならざる者! 魔物として相対せよ!」
フィエルの姿は子供の姿。兵士達が怖気づいていると、王が兵士の隊長っぽい人に声をあげる。
隊長の声で頷いた兵士達。月の光でキラリと光る槍がフィエルへと向けられる。
「やれ!」
バルトロの声で槍が突き入れられる。フィエルはそれを掌で受け止め、鋭くとがった槍が曲がっていく。
掌が光ってる、マナそのものを手に纏ってるみたいだ。
「ば、化け物め」
「ははは、天使に勝てるはずがないだろう。仕方ない。フィエル! ネタフを殺せ。あなたにはエレービアを落とす仕事をしてもらおうと思いましたが、私がやることにしました。なので安心して死んでください」
気圧されるネタフにグラフが勝ちを確信して声をあげる。フィエルは体を震わせて動けずにいる。
彼女はまだ完全に天使になっていないみたいだ。
「どうしたフィエル! やらないか!」
「……いや、できない!」
「なに~! ご主人様の言うことが聞けないというのか!」
グラフの声に首を横に振ってこたえるフィエル。その声に安心する兵士達だったけれど、すぐに顔を青ざめることになる。
「従魔のくせに言うことを聞かない。そんなことが許されるはずがないだろ! お前はいうことを聞くんだ!」
「うう……」
グラフが苛立ちフィエルの魔石にマナを注ぎだす。光が魔石に入っていくと次第にフィエルの目に光がなくなっていく。
「ははは、従魔は魔石を持っているもののために戦う。マナを魔石に注ぎ、言うことを無理やり利かせる。いうことを聞かない従魔など聞いたこともなかったがな!」
グラフはそう言いながら魔石にマナを注いでいく。
良いことを聞いたぞ。あの魔石を奪えればフィエル、フィールちゃんを取り戻せる。
「アキラ! フィールちゃん!」
頷いているとエミがフィエルに突撃してきた。兵士達の間を無理やり入ってきたから槍で傷ついてる。
傷ついてもお構いなしに抱き着くとフィエルと一緒に僕を覆い隠してくれる。
「お母さん? ううっ。頭が痛い」
「大丈夫よフィールちゃん」
『大丈夫フィール。あなたは死なないわ』
エミの暖かさでフィエルが頭を抱える。その時、エミの声と共に別の女性の声が聞こえてきた。僕にも他の人にもハッキリと聞こえる声。
とても温かい声、まるで僕のお母さんみたいな……。思わず涙がこぼれる。
「な、何だこの声は」
「隙ありだ!」
「な!? 魔石を返せ!」
「返せと言われて返す馬鹿はいない」
風と共にレッグスが動く。グラフから魔石を奪うとベロを出して言い返す。
「よくやった! 兵士達よ! その娘はいい! グラフを捕らえよ!」
バルトロが声をあげると兵士達が動き出す。グラフに槍を向けて囲う。
「もうおしまいだグラフ。謀反の罪は重いぞ」
「くく、ははははは」
ネタフが勝ちを確信して指を突きつけるとグラフが高笑いをした。
みんなグラフが落ち着くまで見つめる。そして、彼が落ち着くと少しの静寂の後、地面が揺れる。
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