第22話 観光①

「ん~、凄いなオーランスは」


 フィールちゃんを助けた日から次の日。更に観光を楽しんでいる。

 レッグスが感嘆の声をあげて辺りを見回してる。


「建物の色を合わせて町全体が芸術品みたいになってる。レグルスエイドの街がすさんで見える……」


「確かに……。ふふ、こんなことを思ってたらレグルス様に怒られそうね」


「はは、確かに」


 二人は楽しそうに町の風景を見つめる。僕は魔法の本が見つけられなくて困ってるんだよな~。


「あ、あの」


「ん?」


 エミに抱かれながら周りを見回しているとフィールちゃんが声を掛けてくる。今日はグラフさんも一緒だな。


「昨日は娘を助けてくれたようで。有難うございます」


「そんな、当たり前のことをしただけですよ。頭をあげてください」


 グラフさんがお礼を言って頭を下げる。貴族でもあるはずなのに準子爵のレッグスに頭を下げてる。彼はとてもいい人なのかもしれないな。


「これ……。お礼」


 グラフさんと話しているとフィールちゃんが本を数冊差し出してくる。


「お父様から魔法の本を探してたって聞いたから持ってきた」


「え?」


 フィールちゃんの声にレッグスが苦笑い。ずっと僕たちを監視していたってことかな? まあ、警戒されても仕方ないのかな。


「ははは、我々を疑っているという話を聞いていたので監視はつけさせていただいてます。申し訳ないとは思っているのですがフィールが襲われたように完全に安全な町でもないですからね。守るという意味が主な理由ですから安心してください」


「は、はぁ……」


 グラフさんの説明にレッグスとエミは更に苦笑いになる。正直に話してくれるのは良いけど、『監視してます』なんて言われていい気持ちはしないよな~。

 それに、僕らを監視していたならフィールちゃんを助けることもできたんじゃないのかな?


「フィールが危険もしっかりと守っています。そもそも私の娘を捕まえられるものは居ません。誰も私の娘には勝てませんから」


 グラフは僕らの思っていたことを察して説明してくれた。溺愛するだけあって強さを信頼してるんだな。


「赤ちゃん可愛い。お名前は?」


「アキラっていうのよ」


 フィールちゃんが僕を見つめて褒めてくれる。キラキラした瞳で見つめてきて何だか照れてしまう。


「プニプニ」


「体全体が柔らかくて気持ちいいのよ」


 頬をつついてくるフィールちゃん。楽しそうに何度もつついてくる。楽しそうにエミも一緒に頬をつついてきた。


「抱きしめてみる?」


「え? いいの?」


「うん、アキラは良い子だから大丈夫よ」


 エミが僕をフィールちゃんに差し出す。怯えた様子の彼女はゆっくりと僕を抱きしめる。彼女も5歳くらいの少女、少し重いのか、体を揺らす。


「柔らかい……それに温かい」


「ふふ、そうでしょ。とっても温かくて何だか守ってあげたくなるの」


 フィールちゃんの声にエミが嬉しそうに目を細めて彼女に抱かれる僕を見つめる。


「子供を守るのは親として当たり前のことだけどね」


「……子供を守るのが当たり前?」


「そうよ。可愛い我が子の為なら私は死んでもいい。そう思ってる」


「……」


 エミの声にフィールちゃんは首を傾げた。更にエミが話すと無言で考え込んでグラフさんに視線を向ける。


「バブ?」


 その様子に思わず僕は呟く。するとフィールちゃんは悲しい表情で僕を見つめてくる。


「(あなたのお母さんはとても優しいんだね。お父さんも……)」


「バブ……」


 フィールちゃんは僕にだけ聞こえる小さな声で呟く。僕が首を傾げるとエミに僕を返してくれる。


「大事にしてあげてね」


「ありがと。大事にするわ」


 フィールちゃんは僕の頭を撫でながらそう言ってくれる。エミは微笑んで答える。

 彼女はグラフさんの元に帰ると彼に抱き着いた。


「男で一つで育てていたので寂しくなってしまったのでしょう。ではお礼も済みましたし。そろそろ帰りますね。本当にありがとうございました」


「あ、いえ。私達こそ。本ありがとうございました」


 お辞儀をしてくるグラフさんに答える。彼らはお城の方へと帰っていった。


「……気付かなかったな、監視。まだまだ訓練不足だ」


「ふふ、人には向き不向きがあるわよ。そう言うのは別の仲間に頼っていたでしょ?」


「まあ、そうなんだけどな。今は守るものがあるからな」


 レッグスはショックを受けて項垂れる。周りを見回して監視っぽい人はいない。僕も全然気が付かなかった。エミももちろん、気付いてない。

 彼女の言っているように向き不向きがある。すべてを守るにはそういう点も補わないとな……。


「じゃあそろそろ次なるグルメを探しに行くか!」


「バブ!」


 俯いていたレッグスが元気に声をあげる。僕も同意して声をあげるとエミが微笑んでくれる。この日僕らはオーランスの底力を感じる事となる。食では絶対に勝てない、そう思えるほどの底力を……。

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