第21話 謎の塔

「珍しい品はいかが~」


「食べ物ならうちだよ~」


 観光だと声をあげてエミに抱き上げられて市場にやってきた。魔石や本を扱うお店と食べ物のお店がすぐに目についた。と言っても僕はまだ食べられないから魔石と本のお店だな。

 だけどそれは僕の希望だ。エミとレッグスは食べ物のお店に並ぶ。繁盛してるみたいで5人くらい並んでるな。


「らっしゃい! 美味しい美味しい【ホットサンドイッチ】だ。異世界人が教えてくれた美味しいパンだよ~」


「まあ! 異世界の料理ってこと?」


 屋台のおじさんの声に大喜びのエミ。僕も食べられれば喜ぶんだけど。そう思っているとすぐに僕らの番になる。


「いらっしゃい! 3つでいいのかい?」


「あ、まだこの子は無理なのよ。2つで」


 屋台のおじさんが満面の笑みで3つのホットサンドイッチを皿に盛る。エミが答えると2つにして手渡してくる。


「ん!? うまい! ハムとチーズとトマトのソースが絶品だな」


「これで大銅貨一枚? 帝国は裕福なのね」


 早速一口食べる二人。チーズが糸をひいてとても美味しそうだ。匂いで僕も涎が出てしまう。


「アキラも少し食べてみるか?」


「少し早いけど、アキラなら大丈夫かもね。ア~ン」


 食べたそうにしていた僕にレッグスが声をあげてくれる。エミが僕にお口ア~ンをしてくる。待望の固形食だ。

 僕は大喜びでお口を開ける。ん!? ビリビリ!?


「アブアブ!?」


 ホットサンドイッチを頬張ると舌に電気が走る。思わず声をあげると二人はにっこりと笑う。


「ふふ、初めての味覚にびっくりしてるわ」


「はは、面白いな!」


 二人の声で思い出す。TVで初めての食事とかいう番組を見たことがあった。その時に赤ん坊がレモンにびっくりしていたっけ。

 トマトソースが美味しすぎて電気が走ったのか。もう一回!


「バブバブ!」


「もっと欲しいの? はいはい」


「ははは、これじゃエミのがなくなっちゃうな。もう1個買ってくるな」


 嬉しそうに二人は声をあげる。一瞬で僕はエミのホットサンドイッチを食べ終える。レッグスは追加でもう1つを買うことになる。

 僕はとうとう固形食を食べれるようになった。普通の赤ん坊よりもステータスが高いからいけるみたいだな。しかし、美味しすぎる。もっといろんなものが食べたい。


「おい! あの話聞いたか?」


「ん? どんな話だ?」


 いろんな食べ物に目移りしていると気になる話をしてるおじさん達がいた。


「宮廷魔術師のグラフ様がエルダートレントを仕留めたんだとよ」


「え!? エルダートレント!? Bランクの魔物じゃねえか! 凄いな」


 グラフさんの話だ。おじさん達は嬉しそうに話してて国への信頼が伺えるな。トレントって木の魔物だったっけ、結構温厚な魔物のはずだ。

 オーランスはそんな魔物も積極的に倒してるのか。少し怖いな。


「魔法に関しての本をください」

 

 おじさん達の話が終わり、更に食べ物を求めて市場に視線を向ける。すると先ほどの珍しいものを扱うお店の方から声が聞こえてくる。見るとそこにはフィールちゃんがいた。

 

「ん? お嬢ちゃん。お父さんのお使いかな? 魔法の本はこれとこれだけだ。金貨1枚だけど、あるかい?」


「はい」


 金貨1枚を求められてすぐに差し出すフィールちゃん。革袋に沢山の金貨が入っているのが見える。僕でも見えるんだから悪い人たちにも見られてるよね。


「この本で私もお父様みたいになれるかな」


 本を買って市場を後にするフィールちゃん。近道なのか路地に入っていく彼女。とても迂闊だ。


「お嬢ちゃん。小遣いくれるか?」


「ヒッヒッヒ。高値で売れそうな少女に金貨の入った革袋。狙わないほうがおかしいぜ」


 フィールちゃんに声をかける男達。いかにもな男達に彼女はおびえた様子を見せる。


「さあ、こっちに来てもらおうか」


「おっと。あんたらみたいな汚い男達が触れていい人じゃないぞ」


 男達が剣を見せてフィールちゃんに近づいていく。そんなときに颯爽と現れるレッグスとエミ。

 エミに抱かれたまま男達を睨みつける。

 

「6人か、10秒もいらねぇな」


「あ? なに言ってやがる! 女以外はいらねぇ。やっちまえ!」


 レッグスが首を鳴らして剣を抜く。すると男たちのリーダーが声をあげる。

 その声と同時に一陣の風が起こる。レッグスが駆けるときに生じた風、男たちの腕や足が切り落とされて宙に舞う。


「……ありがとうございます」


 男達が戦意喪失して兵士に連行されていく。フィールちゃんはずっと唖然としていてやっと僕らにお礼を言ってくる。


「お礼はいらないよ。でもこれからは気を付けた方がいい。グラフさんにも護衛をつけるように言っておかないとな」


「さ、触らないで!」


「!?」


 レッグスが優しく声をかけながらフィールちゃんの肩に手を置く。すると彼女の体から白い光が放たれてレッグスを壁までたたきつける。


「ご、ごめんなさい! た、助けてくれてありがとうございました。私はこれで!」


 放心するレッグスを他所にフィールちゃんはお辞儀をして路地から去っていく。

 あまりの光景に兵士達も放心状態になってるな。


「は~、あれが宮廷魔術師グラフ様のご息女か」


「魔法にたけているはずだ。あんたもあまり気安く女の子に触れちゃダメだぞ」


 兵士さんはそう言ってレッグスに手を貸して立たせる。確かに彼は気安過ぎだよな。

 それにしても凄い威力の変わった魔法だ。防御的な魔法だったけど、あれが攻撃になったらどうなることか。


「なるほど、あれが塔の正体だったか」


 感心しているとレッグスがたたきつけられた壁を見て呟く。真っ黒な塔の白い傷、それと似ている傷が壁に出来上がっていた。

 そういえば、グラフの包帯は訓練でって言っていた。あの塔で訓練をしていたってことか。

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